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超音波ガイド下区域麻酔による上下肢手術の留意点

No.4774 (2015年10月24日発行) P.60

仲西康顕 (奈良県立医科大学整形外科学)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

近年,超音波ガイド下の区域麻酔による整形外科四肢の手術が増えています。その適応と限界,留意点などについて,奈良県立医科大学・仲西康顕先生のご教示をお願いします。
【質問者】
藤原憲太:大阪医科大学整形外科学講師

【A】

超音波診断装置の性能向上に伴い,超音波ガイド下に腕神経叢などの末梢神経近傍へ局所麻酔薬の注入を行う区域麻酔法(超音波ガイド下伝達麻酔)の技術が近年麻酔科で発達し,現在多くの整形外科医からも注目されています。超音波Bモードでリアルタイムに末梢神経の輪郭と針先,局所麻酔薬の広がりを確認できるこの手技は,目的とする部位へ選択的に麻酔効果を発現させる区域麻酔を臨床医にとってより身近なものとしました。
現在,当科では3年余り前から上腕骨の骨折手術とほぼすべての肘関節・下腿遠位より末梢の上下肢手術を対象として伝達麻酔単独での手術を実施しており,ほぼ全例において術中の局所麻酔薬追加を必要とせず,幸い神経損傷や深刻な局所麻酔薬中毒などの合併症も経験していません。術後の全身の安静や食事なども特に制限せず,区域麻酔の鎮痛効果は術後も持続しますので,手術を受ける患者さんにとっても利点の多い方法と考えられます。
超音波ガイド下末梢神経ブロックには大きく3つの目的と段階に応じた使用方法があると考えます。すなわち,(1)全身麻酔の鎮痛補助としてのブロック,(2)術後鎮痛のためのブロック,(3)区域麻酔のみで手術を行うためのブロック,の3通りです。
整形外科医にとって,(3)の全身麻酔を併用せず超音波ガイド下ブロックのみで行う手術は特に魅力的で,日常診療の幅を大きく広げられるツールのように思われます。しかし,末梢神経ブロック単独で確実に手術に必要な鎮痛を完成させるためには,対象の神経を同定する技術や,超音波ガイド下に針を操作し,神経近傍の狙ったスペースに薬液を正確に広げる技術が要求されますので,ラーニングカーブは無視できません。最初は,外来診療での超音波ガイド下関節内注射や全身/脊椎麻酔の術後鎮痛目的としての末梢神経ブロックに十分慣れることをお勧めしています。
伝達麻酔では局所麻酔薬を比較的大量に用いるため,局所麻酔薬中毒に対する十分な知識と準備が必要です。局所麻酔薬の過量投与や血管内誤注入による心毒性は,致命的な合併症として知られています。
私たちは局所麻酔薬として主にエピネフリンを添加しないリドカイン(キシロカインR),ロピバカイン(アナペインR)を使用していますが,これらの極量は3mg/kgとされており,極量に至らない範囲内でブロックを確実に行える技術がない場合は,無理せずほかの麻酔法を検討する必要があります。また,局所麻酔薬中毒への有効性が近年報告されている脂肪乳剤静注によるlipid rescueの準備や,コメディカルスタッフを含めた局所麻酔薬についての知識の共有も重要です。

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