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人工皮膚・培養皮膚の整容目的への使用の可能性

No.4774 (2015年10月24日発行) P.60

森本尚樹 (関西医科大学形成外科学講師)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

近年の細胞培養やiPS細胞利用技術などの進歩には著しいものがあります。しかし,人工皮膚・培養皮膚の臨床応用結果は,全身熱傷の救命のレベルには達しているようですが,整容目的に使用するのには不十分なように思います。こうした技術により整容的に満足のいく結果(普通の植皮と同等の結果)が得られる日が来るのでしょうか,あるいはそれは不可能なことなのでしょうか。関西医科大学・森本尚樹先生のご教示をお願いします。
【質問者】
葛西健一郎:葛西形成外科院長

【A】

細胞培養技術の進歩には目覚ましいものがあり,各種の幹細胞や主要な体細胞の培養は可能になりました。平面培養技術だけではなく,3次元培養技術も進歩しており,数層以上の複数の種類の細胞を組み合わせた組織培養も行われています。
皮膚の主要な構成細胞は,表皮を形成する表皮細胞と真皮で細胞外マトリックスを産生する線維芽細胞です。表皮細胞,線維芽細胞とも培養方法は1970年代に確立され,臨床使用も80年代から行われており,培養に用いるウシ血清や培養に伴う悪性化という安全性に関わる問題も解決されています。しかし,ご指摘の通り,いまだに自家植皮と同じ品質の皮膚は得られていません。
この原因は表皮にあるのではなく,真皮の再生が不十分なことにあります。表皮に関しては,確立された方法であるGreen法で培養することで,十分な大きさの正常表皮と同じ品質の培養表皮が作製可能です。これは,表皮は表皮細胞が重層化したものであり,表皮細胞の培養ができれば容易に作製できるからです。
一方で,真皮はほとんどが細胞外マトリックス(コラーゲン,グリコサミノグリカン,弾性線維など)から形成され,細胞はわずかしか含まれていません。いくら線維芽細胞の培養を行っても,マトリックスまで産生させて正常の真皮を培養操作でつくるのは現状では不可能です。真皮を完全に再生させるには患者さん自身の真皮を再生させる必要があり,他人(同種)の真皮では長期的には吸収されてしまいます。
ヒト線維芽細胞を培養しヒトコラーゲンをつくる,ということは商業ベースでも可能になってきましたが,患者さんの自己コラーゲンや弾性線維までも作製し,さらに真皮構造をつくるとなると,解決すべき問題は山積しています。
人工真皮は異種コラーゲンもしくは同種コラーゲンを用いてつくるので,必ず吸収されます。吸収されにくい材料を用いると,今度は炎症が強くなります。自己コラーゲンを使用し,炎症を惹起しない強固なコラーゲン線維を作製することができれば,自己真皮ができるのかもしれません。同種皮膚の抗原性をコントロールできれば,自家植皮と同等に使用できるのかもしれません。単独の技術によっては困難ですが,培養技術,バイオマテリアル技術,炎症コントロール技術などを組み合わせれば,真皮再生は不可能ではない,と考えています。

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