【Q】
乳房再建に脂肪注入が行われますが,それに加えて体外式乳房拡張装置(breast enhancement and shaping system:BRAVAR)が注目されています。
従来の脂肪注入と比較して,どの程度の生着率の増加が期待できるか,乳腺全摘出後の患者さんの場合はどのサイズの乳房まで再建できるか,今後の保険収載を含めた見通しなどについて,横浜市立大学・佐武利彦先生のご教示をお願いします。
【質問者】
貴志和生:慶應義塾大学医学部形成外科教授
【A】
乳癌術後の乳房欠損に対する脂肪注入(遊離脂肪移植)は,近年,乳房再建の新しい選択肢として脚光を浴びています。この背景としては,移植した脂肪の生着率を良くするために,脂肪吸引,遠心分離,脂肪注入などの手術手技が向上したことや,移植床の条件を良くするための体外式乳房拡張装置BRAVAが利用できるようになったことが挙げられます。また,画像診断技術の進歩もあり,移植後の脂肪壊死による石灰化と,乳癌による悪性の石灰化が容易に鑑別できるようになったからです。
BRAVAは脂肪移植術の前後それぞれ4週間使用します。再建部位に1日計10~12時間装着して,低圧の持続吸引を行います。術前の使用は組織の間質液圧を下げて脂肪注入量を多くするためです。また,毛細血管を増加させて移植床の血行を良くすることで,生着率の向上が期待できます。移植後の使用はこれ以外に,ドーム内で移植した脂肪を安静保持するために役立っています。
私たちは2012年5月からBRAVAを併用した脂肪注入による乳房再建術に着手し,これまでに乳房全摘出後の73例(一次再建13例,二次再建60例)に適応しています。手術はまず,シリンジを用いて手動式脂肪吸引を行います。次に,採取した脂肪を手動式遠心機にて72Gで遠心分離しますが,適度に水分を含んだ脂肪が準備でき,乳房の大胸筋や皮下脂肪内に,塊状にならずに拡散して移植することができます。移植はコールマンテクニックで,1回の注入量を少なくして,細かく重層しながら注入します。術中の組織内圧のモニタリングは注入量の良い指標となります。必要に応じて,皮下瘢痕を14~18Gのニードルで網状に解除します。
治療を受ける患者さんごとに,乳癌術式,残存する乳房の皮膚,皮下脂肪の状態,大胸筋の萎縮,放射線照射の有無,健側乳房の大きさと形態,ドナー部の皮下脂肪のつき具合などが異なります。したがって,1回の手術での脂肪注入量,移植脂肪の生着率,再建終了までの脂肪移植の回数などが異なります。
当施設でのデータでは,1回の脂肪移植量の平均が298mL(175~480mL)でした。生着率は術後6カ月でVECTRAR (3次元画像診断装置)で撮影した写真から判定します。個人差が大きいのですが,平均56.5%(44.5~75.6%)でした。
これまでの経験から,乳房の皮膚欠損が少なく,皮下瘢痕も軽微で,脂肪吸引のドナー部にあまり不自由しない患者さんが手術の良い適応となり,Cカップサイズまでの乳房再建が可能です。手術の平均所要時間は1時間42分と短く低侵襲で,日帰り手術でも対応できます。自家組織のため温かく柔らかな乳房が再建できますが,一方で脂肪移植は2回以上必要ですし,BRAVAによる乳房皮膚トラブルも高率に発生します。治療は自費診療で行われており,保険収載の時期は現時点で未定です。