【Q】
前立腺癌治療において近年bone managementの重要性が指摘されています。ホルモン療法を施行している患者では比較的早期から骨塩量の低下が起こると報告されていますし,骨転移を有する患者では骨関連事象の予防のみならず,直接的な抗腫瘍効果も期待されます。
貴施設での実臨床におけるbone managementの指針,開始時期や評価のための検査などについて,東京慈恵会医科大学・木村高弘先生のご教示をお願いします。
【質問者】
飯塚淳平:東京女子医科大学泌尿器科
【A】
前立腺癌におけるbone managementの重要性は増しています。特に転移性前立腺癌の場合は,骨転移に関連する骨関連事象(skeletal related events:SRE)に加え,内分泌療法やステロイドなどの治療に関連するSREも起こりうるため,その対策は重要です。内分泌療法中に生じた病的骨折は生存期間を短縮させるという報告もあります。
(1)転移性前立腺癌への保険適用薬剤
現在,わが国で転移性前立腺癌への保険適用が認められている薬剤は,ゾレドロン酸(ゾメタR )とヒト型抗RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)モノクローナル抗体製剤デノスマブ(ランマークR )です。
無症候性骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした無作為化比較試験において,デノスマブのほうがゾレドロン酸に比べ有意にSRE出現までの期間を延長したという結果から,有効性に関してはデノスマブのほうにエビデンスがあります。しかし一方で,重篤な有害事象である顎骨壊死や低カルシウム血症の発現頻度はデノスマブのほうが高い傾向にあり,症例による使いわけが必要です。
また,投与前の歯科による齲歯のチェック,投与後の血清カルシウム値のチェックとカルシウムおよびビタミンD製剤(デノタスRなど)の投与は必須です。
(2)投与開始時期
投与開始時期は,わが国における実臨床では欧米と比較して使用開始時期が遅い傾向があると思われます。骨転移のない去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした無作為化比較試験によりデノスマブによる骨転移予防効果が示されていることからも,現在わが国では骨転移のない症例への使用はできませんが,有転移症例に関しては早期より積極的に投与しています。
実際には,骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌や症候性転移性を有するホルモン感受性前立腺癌はもちろんとして,無症候性骨転移の症例でも長期の内分泌療法により骨粗鬆症のリスクが上がるため,定期的に骨密度の測定を行い,その低下を認める症例や多発骨転移を有する症例では積極的に投与しています。
治療効果の判定にⅠ型コラーゲン架橋N-テロペプチド(typeⅠcollagen cross-linked N-telopeptide:NTX)や骨型アルカリフォスファターゼ(bone specific alkaline phosphatase:BAP)などの骨代謝マーカーの有用性は報告されていますが,薬剤の中止時期に関するエビデンスはまだ一定の見解がないと思われ,原則的に副作用のない限り継続的に投与しています。
(3)転移がない前立腺癌に対する留意事項
さらに,転移を有しない前立腺癌患者に対するbone managementにも気をつけています。前述のように,長期の内分泌療法は骨粗鬆症のリスクを高めるだけではなく,前立腺癌治療においてはドセタキセル,カバジタキセル,アビラテロンなどの併用薬としてステロイドを使用することが多いため,ステロイド性骨粗鬆症に対する注意も必要です。特に,1日プレドニゾロン換算10mg以上を投与する場合には,経口ビスホスホネート製剤やデノスマブ(プラリアR)などを使用しています。