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コレステロール値が高くない糖尿病患者へのスタチンの作用

No.4780 (2015年12月05日発行) P.58

松村 剛 (熊本大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科講師)

登録日: 2015-12-05

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

先頃,米国でのコレステロール治療に関する2013 ACC/AHAガイドライン(2013 ACC/AHA Guideline on the Treatment of Blood Cholesterol to Reduce Atherosclerotic Cardiovascular Risk in Adults)が大幅に変更され,心血管病の二次予防だけでなく,糖尿病患者においてもスタチン治療が推奨されています。さらに興味深い点は“Fire-and-Forget”と呼ばれ,乱暴に言うとスタチンを投与すれば終わりでありLDL-Cの管理目標値を設定しない,という考え方です。スタチンはもはやコレステロール低下薬という範疇の薬ではないのかもしれません。最近ではスタチンの様々な多面的な作用が解明されていますが,コレステロールが高くない糖尿病患者においてスタチンがどのような有益な作用をもたらすのでしょうか。熊本大学・松村 剛先生のご教示をお願いします。
【質問者】
上原吉就:福岡大学病院予防・抗加齢・再生医療センター 福岡大学スポーツ科学部教授

【A】

糖尿病が脳・心血管疾患などの動脈硬化性疾患の重大な危険因子のひとつであることは,久山町研究をはじめ多くの疫学研究でも証明されており,その危険因子として高LDL-C血症を含む脂質異常症が強く関連することも明らかにされています。実際に,糖尿病患者に対するスタチンを用いたコレステロール低下療法が動脈硬化性疾患(大血管合併症)の発症・進展を有意に抑制することは,多くの大規模臨床試験で証明されています。
現在わが国では,糖尿病患者のLDL-C管理には120mg/dL未満といった目標値が設定されていますが,米国の2013 ACC/AHAガイドラインの改定では,この管理目標値の概念が取り除かれています。LDL-Cの管理目標値を設定しうるだけのエビデンスが現在まで十分でない,という点がその理由とされています。一方,同ガイドラインでは,40~75歳の一次予防の糖尿病患者に対し,LDL-Cが70~189mg/dLの場合においてスタチン使用が推奨されています。結果的に,糖尿病患者であればよほど低い値でない限りスタチンを一律に服用させる,ということになります。
ところでスタチンは本来の血清コレステロール低下作用とは独立した抗動脈硬化作用,いわゆる“多面的効果”を有することが数多く報告されています。この効果は,たとえば血管内皮機能の改善効果や,血管平滑筋細胞の遊走・増殖抑制効果,あるいはマクロファージに対する抗炎症効果や抗酸化作用といった,動脈硬化症の進展に関与する細胞群に直接作用することで発揮されると考えられています。2013 ACC/AHAガイドラインでは,現在のところスタチン以外の薬剤による動脈硬化性心疾患リスク低下のエビデンスはない,と述べています。とすれば,スタチンの有効性は本来のLDL-C低下作用に加えてこれら多面的効果の存在にも依存している可能性が考えられます。
糖尿病における大血管合併症も血管内皮機能障害や血管平滑筋細胞の遊走・増殖能の亢進,あるいは炎症反応の増加などを介して発症・進展につながることが知られており,スタチンはこれらの動脈硬化惹起応答の抑制を介した糖尿病大血管合併症進展抑制効果が期待できる薬剤と言えます。一方,インスリン抵抗性改善薬として使用されているチアゾリジン系薬はperoxisome proliferator-activated receptor-γ(PPARγ)をその標的分子としていますが,筆者らの教室では,マクロファージや血管平滑筋細胞において,スタチンがこのPPARγの活性誘導効果を有することを見出しています。
糖尿病におけるチアゾリジン系薬の糖代謝や心血管への有益性は周知の事実ですので,糖尿病患者に対するスタチンの使用は,そういう点でも大血管合併症進展予防を大いに期待しうる治療法のひとつと考えます。

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