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心機能低下時の悪性リンパ腫治療

No.4783 (2015年12月26日発行) P.55

大間知 謙 (東海大学医学部血液・腫瘍内科講師)

登録日: 2015-12-26

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, not otherwise specified:DLBCL,NOS)治療に関して,その標準治療はR-CHOP〔リツキシマブ(rituximab)+シクロフォスファミド(cyclophosphamide)+ドキソルビシン(doxorubicin)+ビンクリスチン(vincristine)+プレドニゾロン(prednisolone)〕療法ですが,key drugであるドキソルビシンの副作用として心筋毒性が知られています。DLBCL患者は比較的高齢者が多く,時に心機能低下を認めることがあります。
心機能低下と判断する基準と,そのような場合の治療方針をお聞かせ下さい。東海大学・大間知 謙先生にご回答をお願いします。
【質問者】
山本一仁:愛知県がんセンター中央病院 臨床試験部部長/血液・細胞療法部

【A】

ドキソルビシンは悪性リンパ腫治療のkey drugですが,使用に際し,しばしば心毒性が問題となります。総投与量が550mg/m2を超えると心不全の発生頻度が7%程度になるとされ,一般的には500mg/m2を上限とすることが望ましいとされています。しかし,投与量が500mg/m2未満であっても心不全を発症する例もあります。
DLBCLの好発年齢は60歳代後半と比較的高齢であるため,治療前から心機能が低下している例も少なくありません。高齢者では,DLBCLの標準治療であるR-CHOP療法による重篤な心毒性の頻度は8%程度とも報告されており,注意を要する毒性のひとつです。
心機能の評価には,心臓超音波検査や核医学検査であるmultigated acquisition scanningを用いて左室駆出率を評価することが一般的です。治療の中期までに左室駆出率がベースラインより4%低下していると90%の感度で心毒性を検出できるという報告もありますが,多数例の検討やメタ解析では,左室駆出率を含め心不全の発症を予測する確たるマーカーは挙げられておらず,これらの検査をどのような頻度,時期に行うべきかについて明確なコンセンサスはありません。
ドキソルビシンのdose intensityはDLBCLの予後と相関することが知られています。日本人の平均寿命は年々上昇しており,高齢であっても元気な人は少なくありません。ドキソルビシンのdose intensityを下げることで治療効果が減弱することが懸念される場合には,投与法をボーラスから持続点滴にすること,ミトキサントロンやエピルビシンに薬剤を変更することなどで心毒性が軽減できる可能性がありますが,これらの治療によって標準治療と同等の効果が得られるかどうかは不明です。
一方で,高齢者では毒性の増強と引き換えになるため,dose intensityと予後は必ずしも相関しないとする報告もあります。ドキソルビシンによる心筋障害は不可逆性であるため,治療前から有意に心機能が低下している例では,ドキソルビシンを減量したり省略することが現実的な対応であると考えます。
明確な基準がないため個々の事例での判断となりますが,心筋梗塞などの不可逆的な原因を有する例や重度の心機能低下例ではドキソルビシンの省略,不可逆的ではなく心保護療法などで対応可能な心機能低下例ではドキソルビシンの減量,これらの対応では治療として不十分となるような例では代替の治療を検討しています。

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