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難治性疼痛に対する外科治療法の選択【難治性の神経障害性疼痛には手術療法に薬物療法を含めた総合的な治療が必要】

No.4785 (2016年01月09日発行) P.53

山本隆充 (日本大学医学部脳神経外科学系応用システム 神経科学分野教授)

登録日: 2016-01-09

最終更新日: 2021-01-05

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【Q】

薬物で難治な疼痛は日常臨床で最も悩ましい症状です。種々の外科治療法の適応があると考えられますが,引き抜き損傷後の幻肢痛に脊髄刺激を行ってみたところ,疼痛緩和にならないばかりか刺激により逆に苦痛を与えてしまい,慢性埋め込みにはなりませんでした。そのような場合の次の治療法選択はいかがでしょうか。豊富な経験をお持ちの日本大学・山本隆充先生に,外科治療の適応や選択あるいは刺激療法に関する最近の考え方について解説をお願いします。
【質問者】
亀山茂樹 国立病院機構西新潟中央病院名誉院長

【A】

脊髄刺激では,刺激によって疼痛部位に刺激感覚(paresthesia)を誘発する必要があります。引き抜き損傷後の幻肢痛症例に対して,脊髄背面に1本あるいは2本の電極を挿入して刺激を行う通常の方法では,幻肢痛の部位をスキップして周辺部位のみにparesthesiaが誘発されることが多いので,十分な除痛効果を得ることは困難と考えられます。
このような場合には,刺激電極を脊髄硬膜外で脊髄の前面に1本,後面に1本挿入し,脊髄を挾むようにして刺激を行うと,より深部まで刺激が到達するので,幻肢の部位にもparesthesiaを誘発することができた経験があります。脊髄の前面に電極を留置するには,脊髄硬膜外針を用いて電極を挿入直後に外側に向かって電極を進めることによって,脊髄の周囲を回って前面に向かい,あとは真っすぐに上方に向かいますので,適当な脊髄レベルまで進めます。また,脊髄後面の電極を陰極,前面の電極を陽極で刺激する必要があります。主に陰極の部位が刺激されるため,逆だとmuscle twitchばかりが誘発されて,疼痛部位にparesthesiaを誘発することができません。
幻肢痛の原因が神経根の損傷によるもので,脊髄の損傷を伴わない症例ならば,視床知覚中継核(視床Vc核)の刺激が非常に有効です。しかし,脊髄が損傷されている症例では,大脳皮質運動野の刺激を選択する必要があります。
これまでに,引き抜きで脊髄が損傷している症例では,dorsal root entry zone(DREZ)の破壊術あるいはmicrosurgical DREZotomyが劇的に奏効したとの報告があります。特に脊髄後角近辺の髄内病変で,痛みが当該髄節に限局していて,発作性の痛みに,特に有効とされています。各種の刺激療法で十分な効果が得られない場合には,試みるべき治療法であると考えます。
私は神経障害性疼痛に脳脊髄刺激療法を施行する場合には,モルヒネ,チオペンタール(ラボナールR ),ケタミンを用いたドラッグチャレンジテスト(drug challenge test:DCT)を行うようにしています。ラボナールテストで,入眠する直前までvisual analogue scale(VAS)が変化しない症例は,外科的治療の適応外としています。また,ケタミン有効例には,脳脊髄刺激療法の有効例が多いという結果に加えて,低用量ケタミン点滴療法を併用することで,脳脊髄刺激の効果を増強できます。さらに,モルヒネが有効な症例では,各種オピオイドを使用することもできます。プレガバリン,抗うつ薬,抗不安薬の併用も行っています。
難治性の神経障害性疼痛の治療には,手術療法に各種の薬物療法を含めた総合的な治療が必要と考えています。

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