【Q】
腎臓外来に「数年前にネフローゼを発症し,ステロイドなどで治療を行った結果,数回の再発を経て現在は年単位で再発がないが,転居のためステロイド治療の継続を行ってほしい」との依頼がある場合があります。
教科書などでは,開始時の治療ばかりで,終了に関するものが少ない印象です。ネフローゼ疾患で,完全寛解・不完全寛解Ⅰ型状態が年単位で続いた場合の対応について,名古屋大学・丸山彰一先生のご教示をお願いします。
【質問者】
三木祐介:豊川メイツクリニック院長
【A】
ネフローゼ症候群の治療は原疾患により異なります。治療の終了について決まった方法はありませんが,成人でそれぞれ40%を占める膜性腎症(membranous nephropathy:MN)と微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephro-tic syndrome:MCNS)について私が実施している治療法を述べます。
MNに対する初期治療としてシクロスポリンとステロイドを8カ月併用した研究では中止後の再発が多いことが報告されています(文献1)。私はMNの初期治療としてシクロスポリンとステロイドの併用療法を行うことが多いのですが,順調なケースでも2年は少量の治療薬を継続しています。再発を経て完全寛解している場合にも同様で,最後の再発後2年程度は免疫抑制治療を続けています。一方,MNで不完全寛解が持続する場合は,免疫抑制療法の適応とは言えません。ネフローゼ状態を脱した時点で免疫抑制治療薬は漸減しはじめ,約2年で完全に中止しています。
MCNSの初期治療としてのステロイドは完全寛解後,漸減し中止します。通常,完全に中止するのに2年ほどかかります。昨年報告された小児例のMCNS研究では,ステロイドを2カ月で中止した群と6カ月継続した群の再発率に差がありませんでした(文献2)。この報告以降,私は成人でも初期治療は2カ月でいったん中止して経過をみるようにしています。一方,MCNSで数回再発する場合は,その後も再発を繰り返すことが予想されます。こうしたケースでは慎重にステロイドを漸減するため,完全に中止するまで2年以上かかります。
さて,今回のご質問に対するお答えですが,「年単位で再発がなく完全寛解・不完全寛解Ⅰ型が持続しているケース」では,原則治療を中止すべきと考えます。しかし,続発性副腎不全をきたす危険性があるため,ステロイドは急には止められません。その時点でのステロイド内服量にもよりますが,完全に中止するのには1年以上かかるかもしれません。
わが国の診療実態の調査研究で,高齢のMCNS患者に感染症による死亡例が少なくないことが判明しました(文献3) 。特に高齢者では不必要な治療を漫然と続けることがないよう気をつける必要があります。ネフローゼ疾患の治療の終わり方はとても重要ですが,具体的な方法を示す臨床研究はほとんど実施されていません。今後の重要な研究課題だと考えます。
1) Cattran DC, et al:Kidney Int. 2001;59(4):484-90.
2) Yoshikawa N, et al:Kidney Int. 2015;87(1):225-32.
3) 松尾清一, 他:厚生労働省研究班「難治性腎疾患に関する調査研究」平成26年度研究報告書.