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炎症性腸疾患の患者が妊娠した際の治療薬使用【基本的に休薬の必要はないが,慎重な対応と患者の考え方の尊重が必要】

No.4807 (2016年06月11日発行) P.56

鈴木康夫 (東邦大学医療センター佐倉病院消化器内科 教授)

登録日: 2016-06-11

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の好発年齢は20~30歳代であり,妊娠年齢と重なります。そのため,妊娠を考えている患者も多くいます。IBD患者における,妊娠中および出産後の治療薬使用についての最近の考え方や注意点などについて,東邦大学医療センター佐倉病院・鈴木康夫先生のご教示をお願いします。
【質問者】
渡辺 守:東京医科歯科大学消化器内科教授

【A】

IBDにおいて,男性患者が服薬や病状に関してパートナーの妊娠の際に注意することは,サラゾピリンR(salazosulfapyridine:SASP)服用による精子運動機能低下に伴って妊孕率が低下する可能性以外は特にありません。女性患者の場合には,妊娠および出産後,特に授乳に関しては投薬に際し十分な説明をする必要が生じます。
妊娠年齢のIBD女性患者に対しては,まず妊娠希望の有無を事前にチェックすることが必要です。妊娠を回避する必要のない場合でも,誤解に基づき無理に妊娠を諦めてしまう場合が少なくないからです。病状が安定している限り,妊娠自体を諦める必要がないことを最初に説明しています。妊娠するタイミングはできるだけ寛解期が望ましいこと,IBD診療で通常投与される薬剤で胎児奇形に関して影響するものはなく休薬の必要はないこと,同様に授乳に際しても乳児に影響するものはなく,母乳が望ましいことを説明しています。
活動期にある女性患者に対しては必要な寛解導入療法を実施し,一定期間寛解状態の維持が確認された後の妊娠が望ましく,寛解導入療法が妊娠期まで長期的影響を及ぼすことはないことを説明しています。ただし,アザチオプリン,6-メルカプトプリンに関しては,実際は影響はないことがわかっていますが,現実的には心配する患者が多く,判断が難しい場合には,妊娠前に最低休薬3カ月を目安とすれば心配ないと説明しています。ただし,それらの薬剤によって寛解維持が初めて可能になった患者に対しては,服用の継続を勧めています。分娩様式に関しては,原則として経腟分娩は可能ですが,Crohn病患者では直腸・肛門病変の有無とその状態によって帝王切開の可能性があることを説明しています。
潰瘍性大腸炎患者における大腸全摘後の人工肛門造設あるいは回腸瘻造設後,Crohn病患者における狭窄・瘻孔・膿瘍切除後あるいは人工肛門造設後については,妊娠・出産が可能か,経腟分娩が可能か,を説明する必要があります。原則として,術後は妊孕率が若干低下するリスクはあるものの可能なこと,経腟分娩が可能であるか否かは肛門の状態が大きく影響し,そのため状況によって帝王切開が選択される可能性があることを説明しています。
最近,多くのIBD患者に投与される機会が多い抗TNF-α抗体製剤インフリキシマブとアダリムマブの妊娠・出産・授乳への影響が懸念されていますが,母体・胎児そして授乳には影響はないと説明しています。ただし,両製剤は妊娠後期に胎盤から胎児へ比較的高濃度で移行することが確認されていることから,妊娠後期に中止するか否か,現在議論されており,明確な結論は出ていません。授乳中には薬剤の構造上,中止する必要はないと説明しています。
以上,簡単にポイントのみ解説しましたが,重要なことは個々の患者の病状によって判断は一様でなく個別的に慎重に対応すること,患者自身の考え方を可能な限り尊重することです。

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