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緑内障の最新の治療法や工夫【Rhoキナーゼ阻害薬やチューブシャント手術など,新しい治療薬・治療法が出てきている】

No.4807 (2016年06月11日発行) P.59

東出朋巳 (金沢大学附属病院眼科 病院臨床教授)

登録日: 2016-06-11

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

緑内障は特に高齢化する日本において非常に頻度が高い疾病です。以前は点眼薬の種類も限られ,手術治療も線維柱帯切除術と切開術のみでしたが,最近,点眼薬のバリエーションも増加し,手術治療も進歩していると聞きます。緑内障の最新の治療法や工夫について,金沢大学附属病院・東出朋巳先生のご教示をお願いします。
【質問者】
生野恭司:いくの眼科院長/大阪大学招聘教授

【A】

緑内障は,進行性の視神経障害により視野障害,視力障害をきたす疾患であり,わが国における成人中途失明原因の第一位です。2000年頃に日本緑内障学会によって行われた疫学調査(多治見スタディ)によると,日本人の40歳以上の有病率は約5%でした。
(1)新しい点眼薬:Rhoキナーゼ阻害薬
緑内障性視神経症の最大の原因は高眼圧であり,従来から緑内障治療=眼圧下降です。1990年代後半から欧米において緑内障治療の多施設ランダム化比較試験の結果が次々と報告され,EBM的に眼圧下降療法の有効性が証明されました。
眼圧下降療法の第一選択は通常,薬物療法(点眼治療)です。ぶどう膜強膜路経由の房水排出促進作用を持つプロスタグランジンF2α誘導体は,強い眼圧下降作用と比較的少ない全身局所の副作用から,今日の第一選択薬となっています。当初のラタノプロスト製剤には後発薬が登場し,異なるプロスタグランジン関連薬3種も上市されています。
眼圧下降作用が不十分である場合,別の作用機序の点眼薬の併用を考慮します。しかし,使用する点眼薬数が増えるほど,緑内障治療に対するアドヒアランスが低下することが知られています。これに対して,異なる作用機序の点眼薬を1つの点眼瓶に合わせた配合点眼薬が2010年から上市され,アドヒアランス向上に貢献しています。現在,β遮断薬+プロスタグランジン関連薬,β遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬の2系統,計5種類の配合点眼薬がわが国で使用されています。
新しい作用機序の点眼薬として,Rhoキナーゼ阻害薬(リパスジル)があります。これは,2014年に世界に先駆けてわが国で上市された点眼薬であり,わが国における産学連携によるトランスレーショナルリサーチの成功例と言えます。房水排出の主経路である線維柱帯・シュレム管経路に直接作用する薬剤であり,他剤との併用による眼圧下降効果の増強が期待されています。
(2)新しい手術治療:チューブシャント手術
緑内障の新しい手術治療として,2012年にチューブシャント手術がわが国で初めて認可されました。緑内障手術は,原理的に濾過手術と房水流出路再建術に大別されます。ともに房水排出促進によって眼圧下降を図りますが,濾過手術は新たな房水流出路(バイパス)を作成する術式であり,房水流出路再建術は生理的房水流出路である線維柱帯・シュレム管経路の流出抵抗を減少させ,房水流出を促進する術式です。一般的に,濾過手術のほうが眼圧下降作用は強いものの術中・術後合併症は多い傾向があり,緑内障の病型や症例背景を考慮して術式を選択します。
濾過手術ではマイトマイシンC併用線維柱帯切除術,房水流出路再建術では線維柱帯切開術がわが国での主な術式でした。新しく認可されたチューブシャント手術はインプラントを使用する濾過手術であり,バルベルト緑内障インプラントとアーメド緑内障バルブでは,前房内あるいは硝子体腔内にチューブ先端を留置し,チューブ内腔を経て眼球後方(外直筋付着部より後方)に位置するプレート上に房水を排出します。約20年前から海外で普及している術式であり,線維柱帯切除術後の濾過胞関連合併症を回避することができ,難治症例の治療成績改善が期待されています。もう1つのチューブシャント手術であるアルコンRエクスプレスR緑内障フィルトレーションデバイスは,線維柱帯切除術と同様の術式ですが,強膜弁下に留置するステンレス製のデバイスの内腔を経て房水が強膜弁下に排出されます。狭い内腔により前房の虚脱が起こりにくく,周辺虹彩切除が不要であるという利点があります。
(3)低侵襲手術:MIGS
近年,minimally invasive glaucoma surgery(MIGS)と呼ばれる低侵襲手術の概念が提唱されています。MIGSは一般的に白内障同時手術として行い,結膜や強膜の手術侵襲を最小限とする術式であり,多くは房水流出路再建術に該当します。前房側から器具を用いて線維柱帯の一部を電気焼灼するトラベクトーム手術はわが国で認可されているMIGSです。欧米では,前房隅角部にデバイスを挿入することによって房水流出抵抗を減少させる様々なMIGSが開発されています。MIGSの最大の長所は,低侵襲であり比較的合併症が少ないことですが,いずれのデバイスも現在日本では未承認であり,デバイスの安全性や眼圧下降効果について長期の報告が待たれます。

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