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HPVワクチンの再接種の目安と諸外国での取り組み

No.4697 (2014年05月03日発行) P.67

蔵本博行 (財団法人神奈川県予防医学協会)

登録日: 2014-05-03

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

子宮頸癌予防ワクチン(HPVワクチン)の接種を一時見合わせている。接種率が落ちてしまい,副反応の発生頻度はますます調べ難くなっていると思うが,何を目安に再接種に向けて動き出すのか。
また,諸外国の取り組み状況はどうなっているのか。 (高知県 A)

【A】

昨年4月1日から子宮頸癌予防ワクチン(HPVワクチン)が定期接種化されたが,マスメディアによる副反応報道などの影響により,6月14日になって厚生労働省が当面このワクチンの接種を勧奨すべきではないと各都道府県宛に勧告した結果,事実上接種が止まっている。有害事象として,接種した上腕ばかりでなく四肢の痺れと疼痛のため歩行困難を訴える複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)を発症したとする報道である。CRPSの発症はこれまでに風疹とB型肝炎の予防接種でも経験され,ワクチン成分が原因で起こるのではなく,外傷や注射針などの刺激で発症すると考えられている。
HPVワクチンでは,昨年3月31日までに世界的には1億5000万例への接種で5例発症しているとのことであるが,わが国では860万例への接種で5例も発症したとの未確認情報がある(文献1)。しかし,わが国での5例は,専門家の評価では,1例を除いて否定されている(文献1)。
HPVワクチンはこれまでのほかのワクチンと異なり,皮下注射ではなく筋肉注射され局所に炎症を惹起して抗体産生を促す方法であるので,注射箇所に多少の疼痛を伴う。このような生理的とも言える疼痛も含めて有害事象が過剰に喧伝されているように思われる。
厚生労働省では,真の副反応の病態と頻度を把握するため,主要病院に指示して調査しているようである。既に昨年11月と本年1月にこれに関する検討部会を開催して,(1)海外においても同様の症例報告はあるものの,ワクチンの安全性への懸念とはとらえられていない,(2)症状のメカニズムとして,心身の反応によるものである,(3)局所の疼痛や不安などが反応を惹起したきっかけとなったことは否定できないが,1カ月以上経過して発症した症例は因果関係を疑う根拠に乏しい,(4)慢性に経過する場合は接種以外の要素が関与している,などの見解が取りまとめられている。しかし,接種再開の是非については,まだ検討不十分とのことで,今後の審議にゆだねられているようである。これに対応して,日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本婦人科腫瘍学会ならびに「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」が,1月の検討部会開催と同日に早期の接種再開を促す要望書を提出している。
ひるがえって,世界では120以上の国々でHPVワクチンは承認され,接種されている。WHOでは,わが国で中断が決められた奇しくも1日前の昨年6月13日に,GACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)を通して,HPVワクチンの安全宣言をしている。
また,同月19日に米国CDC(疾病対策予防センター)は14~19歳女子のHPV感染率が56%減少したとし,同ワクチンの有効性を発表している。さらに昨年8月2日には,国際産科婦人科連合(The International Federation of Gynecology and Obstetrics:FIGO)も1億7500万例の接種経験からHPVワクチンの安全性を表明している。このような中で,HPVワクチン接種の勧奨を中断している国は世界中でわが国だけである。
わが国では,新しいワクチンが開発されると有害事象が大きく報道される風潮があるようである。百日咳や風疹の予防接種がそうであった。中断の結果,前者では1万人以上との患者報告があり(文献2),後者では妊婦の風疹罹患者が激増しているのが現実である。専門学会では,今回の接種勧奨の差し控えがなければ,これまでに2万例の子宮頸癌発症と5000例の子宮頸癌死亡を防ぎえたであろうと推計している。
EBMに則った見地から,1日も早いHPVワクチン定期接種の再開が期待される。厚生労働省が,今後,再開を決定するよう願っている。その際には,ワクチン接種を受ける人たちへの適切なinformed consentと万一有害事象が発症した場合の適切な対処が,我々医療従事者に求められていることを銘記しておきたいものである。

【文献】


1) 厚生労働省:第1回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会配付資料
[http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000014788.html]
2) 医学書院週刊医学界新聞. 2014 Jul. 6;3058号.

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