【Q】
夜間頻尿で困っている患者が尿路結石の既往があるために飲水を多くしているという。尿路結石の予防には,どの程度の飲水が必要とされるのか。 (岩手県 O)
【A】
尿路結石の危険因子として尿量の低下が関与していることは明らかであり,尿量を増加させることは結石成分や発生原因にかかわらず再発予防となることが示されている(文献1)。
[1]予防のための水分摂取
予防に有効な1日の尿量は2000mL以上(文献1) ,シスチン尿症では2500mL以上(文献2) とされる。これだけの尿量を排出するには相応の水分摂取が必要となり,目安として食事以外に目標とする尿量分の水分の摂取を勧める。
また摂取する水分の種類にも留意する。コーヒー・緑茶・紅茶はシュウ酸,炭酸飲料やソフトドリンクは高濃度のリン酸,アルコール類全般は利尿後の尿濃縮やリン酸,特にビールはプリン体・シュウ酸といった結石形成因子を含んでいるため推奨されない。飲料水としてミネラルウォーターを飲むべきかどうかに関して,この影響は大きくないと言われており,お茶類では麦茶・ほうじ茶はシュウ酸が少ないため推奨される(文献3,4)。
[2]夜間頻尿・多尿の定義と対策
夜間頻尿とは「夜間に排尿のために1回以上起きなければならず,そのことにより困っている状態」を言う。原因は大きく(1)多尿・夜間多尿,(2)膀胱蓄尿障害,(3)睡眠障害,にわけられる。多尿であるか否かの判断は排尿日誌(排尿時刻,1回尿量,起床・就寝時間の記録)を3~5日程度つけて,確認する。
多尿の定義は24時間尿量が40mL/kg,夜間多尿の定義は24時間尿量のうち夜間尿量が高齢者で33%,若年者で20%以上とされる。多くの場合,24時間尿量と夜間多尿には相関があり,30mL/kg以上は夜間多尿の危険因子となる(文献5)。
以上から,尿路結石の再発予防に有効な尿量と夜間多尿の原因となる尿量の間には重複がみられるため,予防のための水分摂取によって引き起こされる夜間頻尿は避けられない場合がある。
対策としては,まず夜間頻尿の原因が多尿なのか否かを確認する必要がある。原因となる病態(尿崩症・中枢神経疾患・心不全・腎機能障害・糖尿病・高血圧・薬剤性など)がなく,水分摂取による夜間多尿が考えられる場合は,目標尿量を2000mLにとどめ,就寝の2時間前からは水分摂取を控えるよう指導する。尿路結石の成分・原因に対して食事指導・原因病態の治療・溶解療法などが適切になされ,現時点で尿路結石を有していなければ,目標尿量を1500mL程度にしてもよい。ただし,結石形成の危険度が増加するため,1000mL以下にしてはならない。
一方,夜間頻尿の原因が膀胱蓄尿障害による場合は,原因として考えられる過活動性膀胱・前立腺肥大症・間質性膀胱炎があれば,それぞれの治療を行う。睡眠障害による場合は,不眠症・うつ病・睡眠時無呼吸症候群・周期性四肢運動障害・むずむず脚症候群などの原因に対して,それぞれの治療を行う。
【文献】
1) 日本泌尿器科学会, 他 編:尿路結石症診療ガイドライン. 第2版. 金原出版, 2013, p96-7.
2) 坂本信一:日本泌尿器科学会2013年卒後教育テキスト. 2013;18(1), p38.
3) 柑本康夫, 他:尿路結石症のすべて. 日本尿路結石症学会 編. 医学書院, 2008, p102.
4) 伊藤晴夫, 他:図説 新しい尿路結石症の診断・治療. メジカルビュー社, 2009, p176-7.
5) 日本排尿機能学会:夜間頻尿診療ガイドライン. Blackwell Publishing, 2009, p13,49.