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器質的疾患のない残尿感と膀胱部違和感の治療法

No.4728 (2014年12月06日発行) P.69

山中弥太郎 (日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野外来医長)

高橋 悟 (日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野主任教授)

登録日: 2014-12-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

84歳,男性。数年以上前から夜間頻尿(2~ 3回),排尿遅延などの症状あり。1カ月前,残尿感を訴え,顕微鏡的膿尿を認めたため,抗生物質を数日服用。尿所見は正常化したが,残尿感と膀胱部違和感が持続する。その後,尿所見は常に正常,細菌培養も陰性。排尿痛なし。直腸指診で前立腺の圧痛なし。
経腹壁エコー検査で前立腺は正常大,残尿は50mL以下。器質的疾患のない残尿感と膀胱部違和感の治療法を。 (長崎県 K)

【A】

加齢により,膀胱頸部の機能的閉塞や排尿筋の機能低下をきたすことがあり,前立腺腫大がない場合でも下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)を生じることは稀ではない。LUTSをきたす疾患は数多くあるが,本例では慢性前立腺炎(chronic prostatitis:CP)(文献1) や間質性膀胱炎(interstitial cystitis:IC)(文献2) などが疑われる。
CPは,1999年にNIH(National Institutes of Health)が提唱した前立腺炎症候群の病型分類(文献3)でカテゴリーⅢに相当する疾患である。またカテゴリーⅢは,前立腺マッサージ後の初尿に白血球が存在する炎症性ⅢAと,白血球がみられないⅢBに分類されている。いずれにせよ,本例のように前立腺に形態的,器質的な異常がなくともLU TSが認められる。また,CPではLUTS以外に会陰部,外陰部,骨盤周囲,恥骨上部,鼠径部などに痛みや不快感を訴えることが多い。成因ははっきりとしていないが,非細菌性の炎症性物質や抗炎症性サイトカインが関与していると考えられている。骨盤内静脈のうっ滞,骨盤底筋の過緊張,精神的ストレスも成因のひとつと言われている。
CPの治療には抗菌薬,α1受容体遮断薬,セルニチンポーレンエキス(セルニルトン )などが有効とされているが,薬物療法無効例も少なくなく,経尿道的前立腺マイクロ波温熱療法や心理学的教育法(カウンセリング)も試みられている。
最近,わが国でも前立腺肥大症治療薬としてP DE5阻害薬であるタダラフィル(ザルティア)が承認,発売された。本剤は血管平滑筋弛緩による下部尿路組織の血流改善および前立腺,尿道,膀胱頸部の平滑筋弛緩作用があり,CPの治療薬としても期待が持てそうである。
また,ICは蓄尿時の膀胱痛と1回排尿量の低下を特徴とする疾患だが,男性においてはCPと診断されていることも少なくない。本例の症状は膀胱部違和感程度ではあるが,ICも鑑別疾患のひとつとして念頭に置くべきと考える。診断が難しいこともあるが,膀胱鏡でハンナー潰瘍,点状出血や五月雨状出血などの所見があればICが強く疑われる。
ICの治療法は,膀胱水圧拡張術に唯一保険適用がある。特効薬はなく,抗ヒスタミン薬,抗うつ薬,シメチジン,トシル酸スプラタスト,ステロイドなどが対症療法として用いられている。
最後に,LUTSを有する50歳以上の男性においては血清前立腺特異抗原(PSA)を測定し,前立腺癌の有無を確認することも忘れてはならない。

【文献】


1) 濵砂良一:臨泌. 2012;66(11):839-44.
2) 日本間質性膀胱炎研究会ガイドライン作成委員会:間質性膀胱炎診療ガイドライン. ブラックウェルパブリッシング, 2007.
3) Krieger JN, et al:JAMA. 1999;282(3):236-7.

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