【Q】
時折,「遺伝子の塩基配列決定」についての報道を目にする。この場合,配列とはA「唯一普遍」のものか,それともB「多数存在する中の一例」なのか。
Aの場合は「配列は個体により異なる」という原則に反する。Bの場合は「多数存在する中の一例にすぎない」とも言える。どう理解すべきか。目的・意義も併せて。 (広島県 K)
【A】
結論から述べると,B「多数存在する中の一例」が正解である。周知のように遺伝子は個人個人で異なり,ヒトの遺伝子は30億塩基対からなる。蛋白質をコードしている遺伝子の数は2万5000個程度である。ただし,1つの遺伝子から複数の蛋白質をつくることができるので,体内の蛋白質の数はもっと多い。
各人で顔が違うように,一見,正常な人の遺伝子の配列もそれぞれ異なる。これを遺伝的多型という。一般的に遺伝的多型とは,ある集団の中で多くを占める遺伝子の型と異なる型を持つ人が1%以上いる場合をいう。
代表的な多型にはいくつかの種類がある。主なものは以下の通りであるが,このほかにも多型の種類がある。
(1)コピー数多型(copy number variation:CNV)
ある遺伝子,遺伝子の領域について,1細胞当たりのコピー数が個人によって異なる。
(2)ミニ・マイクロサテライト多型
ヒトの遺伝子の中には,ある一定の遺伝子配列が反復して現れることがある。10~100塩基対程度の配列が繰り返され,その繰り返しの回数が異なるものをミニサテライト多型と呼ぶ。10塩基対以下の繰り返し配列の回数が異なるものを,マイクロサテライト多型と呼ぶ。マイクロサテライト多型はゲノムの中に数10万箇所あると言われている。
(3) 一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)
これはゲノムの中で最も多い多型である。塩基配列が1カ所だけ異なるものである。全ゲノム中1000万箇所以上あると言われている。これらの多型を用いて病気の遺伝子を判明させる方法を連鎖解析という。これらの多型が病気と関係しない場合もあるが,関係している場合もある。たとえば,ある遺伝子の,ある多型は糖尿病に1.5倍なりやすいなどである。
現在,どのような種類の多型があるのかがわかる,遺伝子のデータベースはかなり整備されてきている。日本人に限ったデータベースの整備は少し遅れていたが,徐々に進められ,インターネットなどで見られるようになってきている。
【参考】
▼ 福嶋義光, 監:遺伝医学やさしい系統講義18講. 日本人類遺伝学会第55回大会事務局, 編. メディカル・サイエンスインターナショナル社, 2013.