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ロタウイルスワクチン接種後の腸重積症と血便の原因

No.4729 (2014年12月13日発行) P.55

野口篤子 (秋田大学医学部附属病院小児科外来医長)

高橋 勉 (秋田大学医学部附属病院小児科教授)

登録日: 2014-12-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

ロタウイルスワクチン接種後にみられる腸重積症と血便の原因と,その頻度について。 (山口県 Y)

【A】

近年の諸外国の報告では,ロタウイルスワクチン接種直後には一過性に腸重積の相対リスクが上昇することが確認されている。
メキシコ,ブラジル,豪州,米国における,ワクチン初回接種後7日以内の腸重積の未接種児に対する相対危険度は,1価ワクチン(ロタリックスR)で3.5~8.4であり,5価ワクチン(ロタテックR)では1.5~9.9と,報告(文献1~6)によりばらつきがみられるものの,いずれもわずかに発症率の増加がある。

(1)ワクチンによる腸重積症の頻度
わが国におけるロタリックス開始後の市販直後調査からは,6~20週齢児における初回接種後1週間以内の腸重積発症率は5人/10万人・週(95%CI:1.62~11.7人/10万人・週)と推定される。秋田県での乳児腸重積発症疫学調査(2001~2010年)(文献7)によると,同週齢の未接種児の腸重積発症率は1.38人/10万人・週(95%CI:0.79~2.3人/10万人・週)であった。すなわち,これらのデータをもとにした場合,この週齢児における接種後1週間の腸重積発症に関する相対危険度は3.6(95%CI:1.3~9.9)となる。言い換えると,6~20週齢児のワクチン接種後1週間にワクチンによって生じる腸重積(寄与リスク)は3.62人/10万人・週(1/28000人,95%CI:1/2.3~ 3.7万人)であるとされる。
乳児腸重積発症率全体への影響は,3.62/(158+3.62)×100=2.2%の増加で,日本の年間出生数103万人を乳児人口と仮定すると,わが国では年間37人の乳児腸重積の増加が推定されることになる(これは他国の報告の相対危険度の95%CI内にある)。むろんこれらは短期データであること,海外の報告では初回接種後1週間の発症率が最も高いものの2回目以降も発症率の上昇がみられることなどを考慮し,わが国においても継続的な評価がなされるべきと考えられる。
また,現時点では現行の2種のワクチンの間には,腸重積発症に対する相対危険度に関して明確な差異はない。

(2)ワクチンによる腸重積症の機序
ワクチンにより腸重積の起こる機序について証明した論文は,今の時点ではみられない。自然感染においては,アデノウイルス感染と腸重積との因果関係が確立されているのに比して,ロタウイルス自然感染と腸重積の関連は多くの疫学調査上では否定的である。しかし,ロタウイルス感染腸重積では遠位回腸壁の肥厚とリンパ節腫大や集簇が確認されることや,無症候性ロタウイルス感染は対照より腸重積群において多く認められることなど,ロタウイルス感染の腸重積症への関与を示す報告もある。
ワクチン服用後にも感染成立時のような局所免疫的反応の一部が腸重積発症の契機となっている可能性はある。

(3)ワクチンによる血便の頻度と機序
接種後の血便の頻度は,市販直後調査によるとロタリックスで29例/10万接種,ロタテックで0例/10万接種と報告されているが,未報告例があると思われ,正確な頻度は不明である。その機序としては,免疫反応の賦活による腸リンパ濾胞増殖症,もしくはbrighton criteriaを満たさない腸重積,などの可能性が推測される。

ロタウイルスワクチンの普及により,諸国での入院率の減少,途上国での死亡率の減少は明らかであり,国による発症率や医療環境の違いはあるにせよ,WHOはワクチンによるベネフィットが腸重積のリスクを上回ると結論している。
日本においてもワクチンの有用性はリスクとベネフィットとのバランスの上で決定されるものであり,ワクチンによる疾病負担減少の評価が重要である。

【文献】


1) Shui IM, et al:JAMA. 2012;307(6):598-604.
2) Butery JP, et al:Vaccine. 2011;29(16):3061-6.
3) Velazquez FR, et al:Pediatr Infect Dis J. 2012;31(7):736-44.
4) Patel MM, et al:N Engl J Med. 2011;364(24): 2283-92.
5) Weintraub ES, et al:N Engl J Med. 2014;370 (6):513-9.
6) Yih WK, et al:N Engl J Med. 2014;370(6):503-12.
7) Noguchi A, et al:Jpn J Infect Dis. 2012;65(4): 301-5.

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