【Q】
凝固カスケード(coagulation cascade)上で生じるトロンビンバースト(thrombin burst)とはどのようなものですか。
その臨床的意義をご教示下さい。 (高知県 F)
【A】
トロンビンバーストとは,瞬時における膨大なトロンビン産生のことを意味します。これは,血栓症の発症時はもちろん,正常止血血栓形成時にも必要なトロンビン産生の状態です。
トロンビンバーストの産生機序を説明するには,従来の凝固カスケードでは難しいため,本稿では細胞性凝固反応(cell-mediated coagulation reaction)(図1)(文献1)を用いて説明したいと思います。
血管内皮細胞や単球などに何らかの物理的・化学的凝固刺激が加わると,細胞表面に組織因子が発現します。これに血流中の活性化凝固第Ⅶ因子(Ⅶa因子)が結合することにより,きわめて微量のトロンビン(初期トロンビン:initial thrombin)が産生されます(開始期)。
この初期トロンビンは,トロンビンバーストの“種火”です。初期トロンビンは近傍の血小板や凝固因子を活性化し,活性化血小板膜の陰性荷電リン脂質上で活性化内因系凝固因子からなるⅩase(tenase)を形成します。ⅩaseによりX因子からⅩa因子が産生されます。産生されたⅩa因子も,活性化血小板膜の陰性荷電リン脂質上でⅤaとプロトロンビナーゼ複合体(prothrombinase complex)を形成します。
プロトロンビナーゼ複合体により,プロトロンビンからトロンビンが産生されます。この段階のトロンビンは,まだトロンビンバーストではなく,血小板や凝固因子の活性化にフィードバックします(増幅期)。それにより,Ⅹaseおよびプロトロンビナーゼ複合体の形成が瞬時に繰り返され,ついには膨大なトロンビンが産生されます(増大期)。
その結果,フィブリノゲンはフィブリンに変換され血栓が形成されます。フィブリノゲンをフィブリンにするのに必要なトロンビンは,血小板や凝固因子の活性化に要求されるトロンビンの数百倍の濃度が必要とされます(文献2) 。このフィブリン形成に働く膨大なトロンビン生成をトロンビンバーストと呼びます。
トロンビンバーストが正常な血管内皮細胞や凝固制御因子(アンチトロンビンなど)にコントロールされていると,正常止血血栓になり,これらの凝固制御機構が破綻しているところで形成されると,病的血栓になると考えられます。
1) Hoffman M, et al:Haemostasis. 1996;26(Suppl 1):12-6.
2) Mojerus PW, et al:Platelets in Biology and Pathology. Gordon JL, ed. Elsevier/North-Holland Biomedical Press, 1976, p241-60.