【Q】
43歳,男性,船員。3週間前からときどき左前胸部に重く締めつけられる感じと息苦しさがあり,発作は数時間~1日続きます。一番強い発作は船上での就寝中で,寝返りを打ったり座ったりしましたが,2~3時間続いた後,しだいに消失。受診当日は起床時から息苦しさが続きました。症状は労作,体位と無関係ですが,最近,労作時の息苦しさを感じやすくなったとのこと。
受診時(軽い症状あり)の血圧136/82mmHg,心拍数66/分,SpO2 99%,体温36.2℃,心雑音なし,呼吸音正常。喫煙18~24歳で1日1~2箱,飲酒歴なし。血算正常,生化学検査はLDL-C 188
mg/dL以外は正常,Dダイマー 1.0μg/mL。心電図:心拍数54/分,洞調律。胸部X線に著変ないが,ストレートバック症候群(straight back syndrome:SBS)の診断基準(T4-12のラインからT8までの距離が6mmで1.2cm未満)を満たしています。胸骨-T8/左右径は0.42で基準を満たしていません。
(1) SBSの可能性はあるでしょうか(若い頃,症状はなかったようです)。
(2) 鑑別すべき疾患や必要な診察,検査について。
地域医療機能推進機構・徳田安春先生にご解説をお願いしたいと思います。 (千葉県 K)
【A】
[1]ストレートバック症候群(SBS)の特徴
SBSの可能性はあるとは思いますが,ほかの疾患の除外が必要になると思います。まず,SBSの特徴は以下の通りです。
(1)大多数のSBSは無症状
(2)動悸や胸痛などの症状はあっても軽度のことが多い。典型的には慢性の症状
(3)体動時や胸郭の圧迫で胸壁痛をきたすことがある
(4)僧房弁逸脱症候群や先天性大動脈二尖弁などの合併を認めることがある
(5)胸郭の前後径が短縮するために右室流出路が外から圧迫され,右室の機能的駆出性雑音が聴かれることがある。ただし,右心不全など血行動態に影響を及ぼすことは少ない
一方,本例の特徴は以下と思われます。
(1)症状が「3週間前から」と比較的に急性の発症
(2)症状が比較的強い
(3)症状は胸部の不快感に加えて呼吸困難感が強い
以上より,典型的なSBSではないようですので,ほかの疾患の除外も必要かと思います。
ほかの疾患の可能性が低く,胸壁痛や僧房弁逸脱症候群などがあればSBSの可能性は高まると思います。
[2]鑑別すべき疾患
異型狭心症,発作性不整脈,肺塞栓症,縦隔疾患,食道疾患,抑うつなどに関連する身体表現性障害などが挙げられます。
異型狭心症や発作性不整脈の除外には,ホルター心電図検査が勧められます。本例のDダイマー値は正常ですが,原因が明らかでない呼吸困難があるため,肺塞栓症の除外には胸部造影CT検査または肺換気血流シンチグラフィーが勧められます。
縦隔腫瘍などの縦隔疾患の除外には,胸部造影CT検査が勧められます。食後の症状やげっぷなどがあれば胃食道逆流症の可能性があり,食道内視鏡検査が勧められます。また,食道痙攣の除外には食道造影などが勧められます。抑うつ状態の除外には,抑うつ状態のスクリーニング問診を行います。
▼ Esser SM, et al:Eur Heart J.2009;30(14):1752.
[http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/30/14/11752.long]