【Q】
アレルギー性結膜炎患者に対する医療用の点眼は,コンタクトレンズ使用時には不可とされています。その理由をご教示下さい。
(千葉県 Y)
【A】
点眼薬使用不可で最も考えられる理由として,「そもそもコンタクトレンズ(CL)は目にとって異物である」という考えがあります。また,「点眼薬を使用するような眼疾患を持っている人にCLを装用させてよいのか」との考えもあります。
一般に,CLを装用するとドライアイ傾向になるだけでなく,裸眼時と比較して涙液のターンオーバーが低下します。その結果,花粉などを洗い流す効果が減弱する可能性が指摘されています。また,いったんアレルギー性結膜炎を発症すると,CLが汚れやすくなる上に,汚れを足場としてさらに花粉が付着するなど,悪循環に陥りやすいと言われています(文献1) 。CLは目にとって異物であり,点眼治療を要する眼疾患,たとえば角膜炎症や潰瘍またはGPC(CLによる巨大乳頭結膜炎:giant papillary conjunctivitis)などを伴った疾患があれば原則としてCL装用を中止し,点眼薬の併用を避けるのが望ましいと報告されています(文献2,3)。
CLが装用できなければ,点眼薬の話はなくなります。しかし,実際,患者は花粉症シーズンなどにもCLの装用継続を希望することが多く,CL装用者がアレルギー性結膜炎を発症した場合の治療方針を明確にしておきたいものです。
基本的にアレルギー性結膜炎が重症であれば,CL装用を中止して点眼治療をしなければなりませんが,軽症であれば,うまくCLの種類を選択してCLに影響の少ない抗アレルギー点眼薬を使用することも可能と思われます。ここは処方医の裁量となり(医師の処方が義務づけられている以上,そうなります),その場合は薬と同様にrisk and benefitの問題になります。眼鏡に比べて見やすく,運動などでも不便を感じないことから,花粉症の時期でも装用希望者はいます。こういった患者には,有害事象を含めて薬効を説明し,患者がその善し悪しを理解したときに点眼薬を併用したCLの装用が行われるのが理想だと思います。
さて,上記をふまえた上でもう少し付け加えると,最近の技術進歩で,異物として考えられていたCLに改良が加えられ,1日使い捨てタイプやCLも素材などが検討され,随分目に優しいものができてきました。CLの側から考えると,ほとんどの抗アレルギー点眼薬の影響は受けませんが,そういった報告がある中でも,1日使い捨てタイプであれば,毎日新しいCLを使うのであるから,心配はないのではないかとの考え方があります。また,ハードCLは素材の観点から点眼薬成分による変形や防腐剤の吸着の影響はほぼなく,装用前後にこすり洗いと水道水による十分なすすぎを行うことや,適宜ハードCLを外しての点眼が可能なことから,アレルギー性結膜炎を発症した場合にも比較的安全に点眼薬を併用できるのではないかと考えられます。後述する調査でも,同様に考える医師が多いことが判明しています。
点眼薬にも科学的検討が行われ,CLの形状,素材に,どういった抗アレルギー点眼薬が影響を及ぼすかについての報告もあります。中でもボトルタイプの点眼薬に含まれるBAC(benzalkonium chloride)という防腐剤はCL装用に限らず,目の表面に悪影響があり,CLにも影響があることがわかってきました。
それゆえ1回使い捨てタイプの防腐剤なしの点眼薬が発売され,最近はBACを除いたボトルタイプの抗アレルギー点眼薬も市販されています。それらの添付文書にはCL使用に関する注意事項はなくなっています。さらに,酸性・アルカリ性を調整して涙に近い中性にし,浸透圧も涙に近くした,目に優しい点眼薬が開発されています。
このように,CLと抗アレルギー点眼薬の両者が改良され,より多くの医師がCL装用に際して抗アレルギー点眼薬使用を不可とせずに,risk and benefitを患者と話し合った上で,いろいろと工夫した処方を行うようになってきています。
現在,日本眼科アレルギー研究会は「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」のCL装用者にどういった治療を勧めるかの記載について,調査や相談を重ねているところです。調査のもとになっているのは科学的な検証はもちろん,医師へのアンケート調査です(文献4)。
この問題に答えが出るか否かはわかりませんが,どの程度のアレルギー性結膜炎にどのタイプのCLが適切か,また抗アレルギー点眼薬ならばアレルギー性結膜炎へ点眼治療を行いながらCL装用が可能なのか,現在も検討を重ねています。
以上,質問へのきちんとした回答でないことをお許し下さい。結論としては眼科医とよく相談の上で,重症でないアレルギー性結膜炎を合併したときには,ソフトCLは非イオン性の1日使い捨てタイプを第一選択として,点眼薬のpHや浸透圧が涙液に近いものを選択すれば,目にしみないだけでなく,CLの素材にも影響が少ないと考えてよいと思います。
1) 東原尚代, 他:日コンタクトレンズ会誌. 2012;54(3):166-71.
2) 渡邊 潔:あたらしい眼科. 1993;10:1501-2.
3) 水谷 聡:日コンタクトレンズ会誌. 1995;37(1):35-9.
4) 岡本茂樹:愛媛県眼科医会会報. 2013;143:69-74.