【Q】
心筋梗塞発症後に微熱が持続し,胸痛などをきたす症例がいくつかあります。これらはドレスラー症候群(Dressler syndrome)やpost-cardiac injury syndromeと呼ばれるようですがどのような違いがありますか。また,ステロイドやNSAIDsが有効なこともありますが,自己免疫学的機序が働いているのでしょうか。(埼玉県 N)
【A】
1959年,米国の医師William Dresslerが心筋梗塞発症2~3週間後に37.0~37.5oC前後の微熱が持続し,胸痛,心膜炎,心嚢液貯留などをきたした44症例を心筋梗塞後症候群(post-myocardial infarction syndrome)として報告しました(文献1) 。本症候群は,後にドレスラー症候群と命名され,急性心筋梗塞の代表的な合併症として知られるようになりました。
胸痛は胸膜刺激症状と言われており,心膜炎とともに胸膜炎を引き起こし,胸水貯留を認めることもあります。赤沈促進,CRP陽性,γグロブリン値上昇,血清補体価上昇などを認めますが,白血球数は正常あるいは減少,リンパ球は増加します。心筋梗塞によって発生した新規抗原に対する自己免疫学的機序により発症すると考えられています。中には心筋梗塞発症後,数カ月経ってから発症することもあります。同様の心膜炎は開心術後に発症することもあり,術後2~3週間に明らかな細菌感染症の所見を欠くにもかかわらず,微熱,胸水貯留,心嚢液貯留,関節痛,筋肉痛などをきたし,心膜切開術後症候群(post-pericardiotomy syndrome)と呼ばれます(文献2)。原因は,ウイルス感染が関与している可能性が強く,輸血などによる感染性単球増加症,サイトメガロウイルス,コクサッキーB群ウイルスなどが原因の外因性免疫疾患の一種と考えられていますが,詳細は明らかではありません。しかし,本症候群をも含めてドレスラー症候群とする記載もあります。さらに外傷や,冠血管形成術,カテーテルアブレーション術,ペースメーカー移植術などの後に同様の心膜炎が発症することも報告されており,これらを総称してpost-cardiac injury syndromeとする記載もあります(文献3,4)。
薬物治療として,古くからコルヒチン,アスピリンが用いられますが,NSAIDsが有効となることもあります。ただし,心筋梗塞後症候群の場合,インドメタシンは心筋梗塞の治癒過程を阻害するため,アスピリンが無効の場合に限って使用するべきとされています。これらの薬剤が無効の場合には,副腎皮質ステロイドが用いられますが,ステロイドもまた心筋梗塞の治癒を阻害します。
なお,ステロイドの場合,減量時に再燃することもしばしばあるため注意が必要です。軽度の場合には自然経過で軽快することも多く,一般的には決して予後不良な合併症ではありません。しかし稀に心タンポナーデになるケースもあり,また冠動脈バイバス術後に本症候群を合併すると,グラフト閉塞をきたしやすいという報告もあることから,決してあなどってはならない合併症と考えます。
筆者は,かつて開心術6カ月後に原因不明の胸膜炎が発症,心膜炎はなかったものの本症候群と診断し,アスピリン,NSAIDsが無効だったためステロイド治療を行い,最終的には軽快した72歳男性例を経験しました。本症候群を早期に発見するためには,聴診で心膜摩擦音(pericardial friction rub)や胸膜摩擦音(pleural friction rub)を見逃さないことが重要です。どんな場合でも理学所見は大切と考えます。
文献】
1) Dressler W:AMA Arch Intern Med. 1959;103(1):28-42.
2) Tabatznik B, et al:Am J Cardiol. 1961;7:83-96.
3) Wessman DE, et al:South Med J. 2006;99(3):309-14.
4) Khan AH:Clin Cardiol. 1992;15(2):67-72.