【Q】
早産児の予後が出産が早いほど悪いことは明らかだと思いますが,早産の中でも後期に生まれたlate preterm(LP)児の場合の予後について,可能であれば成人後のデータも含めて教えて下さい。 (兵庫県 K)
【A】
在胎週数は,4週間単位で,たとえば妊娠32~35週は妊娠9カ月として指導されています。しかし,妊娠9カ月半ば~10カ月第1週の妊娠34週0日~36週6日までの3週間の早産児では,呼吸障害や哺乳障害など種々の合併症の頻度が高く,乳児死亡率も高いことが2006年のRajuら(文献1)の報告により明らかになりました。その期間の児はそれまでnear termと表現されていましたが,潜在的未熟性を示すlate preterm(LP)と呼ばれるようになりました(文献2)。
日本でのLP児の出生頻度は,2014年厚生労働省の人口動態調査から総出生数の4.4%(4万3979人)で,各妊娠週数での低出生体重児の割合は,34週91.3%,35週74.1%,36週47.8%,です(文献3)。
Engleら(文献2)はLP児と37週以降の正期産児の出生後の疾病を比較したところ,哺乳に関するトラブル(32.2%vs. 7.4%),低血糖(15.6%vs. 5.3%),黄疸(54.4%vs. 37.9%),体温調節の問題(10.0%vs. 0%),無呼吸(4.0%vs. 0%)を示し,出産病院での管理の必要性を明らかにしています。
LP児の中長期予後については,3歳時での低身長の発生頻度は正期産児よりも有意に高いこと(2.9%vs. 1.4%)(文献4) ,正期産児に比べて,脳性麻痺発症リスクは3.39倍,発達遅滞発症リスクは1.25倍となること(文献5) ,3歳児でLP児と正期産児の周産期背景をそろえて発達障害の頻度を検討するとLP児のほうが正期産児よりも若干高い(6.6%vs. 4.6%)こと(文献6) ,就学前のLP児の発達の遅れや障害発症の相対危険度が1.10~1.19であること(文献7) が示されています。また,成人期までのデータがあるノルウェーのコホート研究では,LP児の脳性麻痺発症の相対危険度が2.7,発達遅滞は1.6と報告されています(文献8) 。しかし一方で,学習障害やADHDのリスクについて,19歳時点のLP児と正期産児に有意な差はないという米国のコホート研究の報告もあります(文献9)。
以上のように,LP児の概念は最近のことであり,成人後の報告はほとんどなく,国内では,沖縄県や神戸市の後ろ向き研究のほか,施設単位の報告が多数で,乳幼児健診期以後の報告が乏しいなど,長期予後は明らかではありません。2011年から開始されている環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」は,妊娠期から13歳になるまでの10万人規模のコホート調査であり,LP児に関しても解明されることが期待されます。
1) Raju TN, et al: Pediatrics. 2006;118(3):1207-14.
2) Engle WA, et al:Pediatrics. 2007;120(6):1390-401.
3) 厚生労働省人口動態調査2014年次:出生数, 性・出生時の体重(100g階級)・妊娠期間(各週)・単産─複産別.
[http://e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do▼_toGL08020103_&listID=000001137973&requestSender=dsearch]
4) 森岡一朗:周産期学シンポジウム抄録集 No.32. 日本周産期・新生児医学会周産期学シンポジウム運営委員会, 編. メジカルビュー社, 2014, p65-9.
5) Petrini JR, et al:J Pediatr. 2009;154(2):169-76.
6) 大場智洋:周産期学シンポジウム抄録集 No.32. 日本周産期・新生児医学会周産期学シンポジウム運営委員会, 編. メジカルビュー社, 2014, p79-84.
7) Morse SB, et al:Pediatrics. 2009;123(4):e622-9.
8) Moster D, et al:N Engl J Med. 2008;359(3):262-73.
9) Harris MN, et al:Pediatrics. 2013;132(3):e630-6.