【Q】
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)患者の多数を占める低リスク群の治療法について。
厚生省特定疾患特発性造血障害調査研究班平成元年度研究業績報告書(1990年)では,蛋白同化(アナボリック)ステロイドを投与した症例で53.6%もの高率に貧血の改善がみられ,日本医師会雑誌124巻8号(2000年)やNo.4066本欄(2002年)などでも,高い有効性が記載されています。しかし最近は,日本血液学会『造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版』や,一般医家向けガイドブック,日本内科学会雑誌104巻7号(2015年)の貧血特集でも触れられていませんし,本剤の保険適用もありません。これらで推奨される保険適用の新薬は1週間当たりの薬価が本剤の約1000倍と高価です。本剤のうち廉価なオキシメトロンはわが国で製造販売が中止になりました。現在のMDS低リスク群はどのように治療されているのでしょうか。また,蛋白同化ステロイドはどのように扱われているのかご教示下さい。 (兵庫県 M)
【A】
MDSの治療は,ここ10年ほどで大きく変わりました。蛋白同化ステロイドが広く用いられていた時代は,より効果的な薬剤がなかったため,用いられていたと思いますが,保険適用もないまま置き去りにされたと言っても過言ではないと思います。低リスクMDSの治療法の基本は輸血依存からの回避です。その意味でエリスロポエチンやレナリドミドでの治療がエビデンスとして推奨されていますが,低形成骨髄で芽球の少ない例では免疫抑制療法も勧められています(European Leukemia Net(文献1))。
さて,ご指摘のように蛋白同化ステロイドは推奨治療に入っていませんし,保険適用もありませんが,低リスクMDS患者にはほかにも保険適用のない薬剤があります。シクロスポリンはPNH陽性血球(CD55 and/or CD59陰性血球)が検出されれば血液の改善や輸血量の減少が期待されます。またビタミンK2とビタミンD3も同様ですが,これらの薬剤はわが国で保険適用がありませんし,効果が期待できる患者を的確に選択することは困難です。
実臨床で治療介入が必要な場合で,血清エリスロポエチン高値(>500mU/mL)であり,5q-染色体のみられない場合では免疫抑制療法が選択されています(文献1)。しかしながら,1年程度の免疫抑制療法で血球回復がみられない場合,特に高齢者の場合にはビタミンK2+ビタミンD3や蛋白同化ステロイドが投与されているのが現状です。これらの治療薬をそれぞれ半年から1年くらい投与して,あまり効果が期待できないようであれば治療法を変更します。また,蛋白同化ステロイドの中でも,いくつかのものを試してみることも必要かもしれません。基本的には輸血依存に進展したり,病型進行するようでなければ,それなりに効果があったと判断してよろしいと思います。
最後に高齢者に多くみられるMDSですが,副作用などのデメリットを念頭に置き,治療法を選択することも必要です。また,移植可能年齢で感染症を繰り返したり,輸血への依存度が高い場合にはRevised International Prognostic Scoring System(IPSS-R)による予後を再検討し(文献2),移植の可能性についても模索する必要があります。従来のIPSSではlow/int-1が低リスク群とされてきましたが,IPSS-Rでは境界領域の患者が再分類されますので,リスク分類の再検討や,できれば1年に1回程度の骨髄評価を行うことも大切だと思います。
1) Malcovati L, et al:Blood. 2013;122(17):2943-64.
2) Greenberg PL, et al:Blood. 2013;120(12):2454-65.