【Q】
息子(独身)が,実母(完全寝たきりで意思疎通困難)を在宅で介護しているケースです。ここに訪問看護ステーションから看護師が定期的に訪問していますが,ときどき看護師に対し言葉や態度(行為)で,いかがわしい行動があり,悩んでいるということです。複数名での訪問も対策にはなりますが,現実には困難です。主治医としては,なんとか助けてあげたいのですが,対策を教えて頂けますか。 (愛知県 F)
【A】
訪問看護師はセクシャルハラスメント(セクハラ)の被害にあいながら,サービスを継続していると想定されます。被害にあった当事者をフォローしながら,セクハラの状況を確認し,組織的に対応することが必要です。被害内容や状況に応じた対応策を検討しましょう。
(1)被害者に対する支援と被害状況の確認
セクハラは被害者の受け止め方によって,被害の大きさや深刻さが異なります。周囲の「職務なので当たり前だ」といった態度は,被害者に対する二次被害を生じさせます。まずは主治医として,被害者に共感的な態度を示し,不快な思いをしながらサービスを継続していることをねぎらい,必ず組織で対応する姿勢を示しましょう。
次に被害内容や期間(頻度)の程度など,状況確認をしましょう。口頭での情報収集だけでなく,もし記録がない場合はまず記録に残す取り組みをしましょう。当事者が言った言葉や行った行為をそのまま記載するようにします。訪問中に録音をするのも1つの方法です。具体的な対応策の検討の材料になりますし,万が一,訴訟になった際の証拠にもなります。
(2)話し合いの場の設定
応急的に複数訪問で対応するとしても,管理者がセクハラ行為や言動をやめるように息子に話す場を持つ必要があります。複数訪問にかかる費用の加算,または契約を中止する可能性についても説明が必要です。訪問看護側に有利な状況で話し合うためには,息子に訪問看護ステーションに出向いてもらい,落ちついた場所を用意し,職員2人以上で対応するように検討しましょう。利用者宅で対応せざるをえない場合も,複数の職員や男性が話し合いの場に同席するだけでも被害の抑止力になります。また,ほかの職種のスタッフにも同様の被害がある,またはこれから生じる可能性があります。ケアチームで情報共有を行い,多職種で連携して組織的な対応を行うことが必要です。
これらの対応には大きな労力を要します。主治医は必要に応じて,話し合いの場への同席や息子への直接的な働きかけも行いましょう。暴力行為を伴う恐れのほか,ケアチームだけで対応することが難しい場合には,医療事情に精通した弁護士に対応について相談しましょう。
(3)加害者への視点と早期組織的対応の重要性
セクハラは,被害者と加害者の個人的な問題ではなく,職場やその他の組織・団体における地位や立場を利用した人権侵害として扱われています(文献1)。理由に関係なく許される行為ではありませんが,援助ニーズのある母親へのサービス継続と家族である息子も援助の対象者であるという視点は必要です。息子の介護負担や生活状況によるストレスについてアセスメントし,その上でセクハラ行為をエスカレートさせないといった視点に立って,早期に組織的な対応を行うことが大切です。
【文献】
1) 三木明子, 他, 編:事例で読み解く看護職が体験する患者からの暴力. 日本看護協会出版会, 2010.
【参考】
日本看護協会政策企画室, 編:保健医療分野における職場の暴力に関する実態調査. 日本看護協会出版会, 2004.
長谷部圭司:事例で学ぶモンスターペイシェントへの実用的対応法(研修資料). 日総研出版, 2014.
長谷部圭司:訴訟・トラブルに強いカルテ・看護記録の書き方. 日総研出版, 2014.
損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント:困った院内トラブル対応─医療安全研修会テキスト. 2009.