【Q】
高齢者では心電図検査時に筋電図が入って判読の妨げになることが多々あります。若い人ではあまり混入しませんが,老人の筋肉では筋収縮が起きているのでしょうか。また,筋電図を減らす方法としては,ベンゾジアゼピン系抗不安薬などを心電図検査の1時間ほど前に投与すればよいのでしょうか。 (東京都 F)
【A】
心電図記録時にしばしば混入するアーチファクトが筋電図で,それには随意性と不随意性があります。その中でも不随意性で律動的に起こるものが腕や足の振戦で,これがしばしば筋電図の発生原因となります。
特に高齢者では,いわゆる老人性振戦(本態性振戦)が起こりやすく,これが高齢者にみられやすい筋電図出現の理由の1つです。また,振戦を起こす原因の1つに抗不整脈薬があります。たとえばアミオダロンやメキシレチン,プロカインアミドなどが知られており,そのような薬剤を使用している場合にも発生することがあります(文献1)。
このときの多くは腕に発生しやすく,12誘導心電図記録時に四肢誘導波形に筋電図混入が起こります。たとえば,右腕に緊張や痙攣が起こった場合は四肢誘導の第Ⅰ誘導と第Ⅱ誘導波形に筋電図が混入し,左腕の場合には第Ⅰ誘導と第Ⅲ誘導に筋電図混入を認めることから,どちらの腕に緊張や痙攣が起こっているのかが判断できます。
筋電図そのものの主な周波数域は30Hz付近にあり,この波形は心電図記録装置に装着されている筋電フィルター(low pass filter)で除去することは可能ですが,いわゆる鈍った波形となり,心電図波形そのものにも少なからぬ影響を与えることになります。
たとえば,早期再分極によって生まれるST点付近のJ波やWPW症候群のデルタ波の検出が不明瞭となることが起こりえます。また,心房粗動や細動で生まれる粗動波,細動波も除去されやすく,波高が減衰しやすいため心電図診断に支障をきたすことがあります。そのため,できればこのようなフィルターを使わずに心電図記録を行うことが望ましいので,ご指摘のようなベンゾジアゼピン系抗不安薬の投与も1つの選択肢と考えられます。また,室温の低下に伴う震えや,検査を受けることへの緊張感が原因と考えられる震えの場合には,室温を少し高めにすることや,何らかの声かけの工夫(たとえば「今からとりますよ」と言う前に記録するような方法)など,緊張感を和らげるための対策も必要かと考えられます。
1) Morgan JC, et al:Lancet Neurol. 2005;4(12):866-76.