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在宅酸素療法や呼吸補助療法に関する適用拡大の動きは? 【誤嚥性肺炎や末期がん患者の苦痛緩和のために】

No.4805 (2016年05月28日発行) P.65

吉澤明孝 (要町病院副院長)

吉澤孝之 (要町病院院長)

登録日: 2016-05-28

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

在宅酸素療法や呼吸補助療法により在宅の誤嚥性肺炎患者や末期がん患者の苦痛を和らげることは可能でしょうか。また,在宅医療が推進されている中で,現在の保険適用では限られた状況にしか使えません。今後,適用拡大の動きはあるのでしょうか。 (福岡県 I)

【A】

在宅での誤嚥性肺炎やがん終末期患者の呼吸困難に対する在宅酸素療法と呼吸補助療法は,症状緩和という点では有効な手段であると考えます。
誤嚥性肺炎患者の多くは急性Ⅰ型呼吸不全を呈します。現行の診療報酬における在宅酸素療法の適用は,(1)高度慢性呼吸不全,(2)肺高血圧症,(3)慢性心不全,(4)チアノーゼ型先天性心疾患,であり,急性呼吸不全は含まれません。そのため,在宅で酸素投与を行う場合には自費診療による酸素療法になってしまいます。
誤嚥性肺炎は高齢者や脳神経疾患患者に多く,心機能をはじめ多臓器の予備力が低下している患者が多いことも事実です。また,NPPV(noninvasive positive pressure ventilation)などの呼吸補助療法も在宅酸素療法と同様に,在宅での急性呼吸不全に対しては適用がありません。
国は高齢者の在宅医療を推進していますが,誤嚥性肺炎など急性呼吸不全の場合には,入院の上,抗菌薬の点滴や酸素投与,呼吸補助療法などを行うように指導されます。しかし,実際には高齢者(特に認知症を発症している場合)をすぐに受け入れてくれる病院を探すことは困難です。そうなると息が苦しくても在宅では酸素も投与できず呼吸補助療法もできない,ましてや良性疾患ではオピオイド使用にも制限があるため苦しいままで過ごさせることになり,それこそ在宅医療推進の妨げになると考えます。
高齢者の在宅医療を推進していくためには,今後,急性呼吸不全に対する在宅での酸素使用についても適用の拡大を検討していく必要があると思います。
がん終末期患者の呼吸困難には,(1)低酸素血症,(2)呼吸困難感,(3)混合型,の3つがあります。詳細は別紙に譲りますが,低酸素血症では酸素療法が適用となり症状が緩和される場合もありますが,酸素投与だけでは不十分な場合もあります。低酸素血症を伴わない呼吸困難感の場合,原因に対する治療が優先されますが,効果不十分であればオピオイドが投与されます。しかし,症例の中には酸素療法が症状緩和に有用な場合もあります。
がん終末期患者の呼吸困難感に対する在宅酸素療法については,現行の診療報酬では適用外でも実際には施行されているというのが現状です。呼吸器専門医の中には酸素を投与しなくてもオピオイドで十分対応できるとする先生もおられますが,オピオイドだけでは不十分な場合があることも事実です。
がん終末期の呼吸困難感,特に体動時の息切れには酸素投与が有効で,酸素を使用することで人生最期のQOLを維持できる方々も多く,実際緩和ケア病棟では酸素を使用し,食事や入浴を行っています。しかし,外泊や退院後には適用がないという理由で,酸素を使用させてもらえないという事態が起こっていることも事実です。NPPVなど換気補助装置にしても,それを使用することで呼吸が楽になり,家族との会話など最期の時間を有意義に過ごされるケースがあります。
非がん患者の緩和ケアではオピオイドの使用に制限があり,神経難病に対するオピオイド使用に関しては神経内科の先生方のご尽力で緩和されたものの,呼吸器疾患や心疾患ではいまだ認められていません。また,在宅酸素療法に関しては,がん終末期患者に対する適用について明記されておらず,「がん終末期の呼吸困難は慢性呼吸不全と言えるか?」など,患者のQOLとはかけ離れた点で論じられているのが現実です。
以上,在宅医療を今後さらに推進するために高齢者やがん終末期患者に対する在宅酸素療法や呼吸補助療法の適用緩和を検討していく必要があることはご指摘の通りと思います。ぜひ早々の検討を願いたいところです。

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