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炎症性貧血疑い例の精査の必要度は?【経済的負担を考慮した次の一手】

No.4806 (2016年06月04日発行) P.67

川端 浩 (京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学講師)

登録日: 2016-06-04

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

炎症性貧血を示唆する検査結果であるものの,原因が不明なことがあります。そのような場合,どこまで検査をするのが合理的でしょうか。原因としてがんなども考えられるため,精査の必要があると思いますが,経済的負担もあるため,このような質問を致しました。 (岡山県 T)

【A】

炎症性の貧血は軽度のことが多く,それ自体が治療の対象になることは少ないのですが,必ず原因があり,ご指摘のように重大な原疾患が隠れていることもあります。すなわち,感染症(結核,非結核性抗酸菌症,HIV感染症,感染性心内膜炎など),悪性腫瘍(悪性リンパ腫や固形がん),自己免疫疾患(関節リウマチ,リウマチ性多発筋痛症,血管炎症候群など),炎症性腸疾患,亜急性甲状腺炎,キャッスルマン病,薬剤性など,おびただしい数の原疾患や原因があります。これらの中で,わが国では衛生状態の改善に伴い感染症の頻度が減り,人口構成の高齢化に伴い悪性腫瘍の頻度が増加しています。また,画像検査や遺伝子検査を含めた診断技術の向上により,コストと侵襲を度外視すれば,多くの原疾患を探し出すことが可能になっています。
原疾患の明らかでない炎症性貧血の患者全員に高度な検査を実施することは,私も医療経済上問題があると考えます。実際には,患者の年齢や基礎疾患,社会的な背景などを考えながら,また,患者の希望をうかがいつつ,総合的に判断されているものと思います。患者が寝たきりの高齢者で,貧血が慢性に経過している場合には,特に原因を追究せずに経過をみる選択肢もあるでしょう。
一方,患者が若年者,あるいは働き盛りで,貧血が進行性であれば,徹底的に原因を追究していくことに,多くの内科医は同意されるものと思います。しかしながら,どこまで検査を進めるのが妥当かについての質の高いコスト・ベネフィット解析研究は見当たりません。このため,以下は私の個人的な見解レベルの回答です。
まず,炎症性貧血であることを確認します。慢性に経過する炎症性貧血は,特に高齢者の場合,骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの造血器疾患と紛らわしいことがあります。炎症性貧血では鉄の利用障害のためにやや小球性・低色素性の貧血で,血清フェリチン値の低下はなく,炎症反応は陽性になります。一方,造血器疾患ではやや大球性になることが多く,また,しばしば血小板や好中球の減少を伴います。もし,このような造血器疾患が疑われる場合には,私なら骨髄検査を実施します。
貧血の原因が慢性炎症であることが明らかであれば,私は基本に立ち返って,病歴と身体所見を再確認します。特に,口腔粘膜や咽頭の観察と甲状腺の触診を行い,全身のリンパ節と脾臓の触診を丁寧に行います。もし,表在リンパ節の腫大がみられれば,積極的に生検を行っています。一般的な血液検査や凝固検査,生化学検査,胸部単純X線検査,腹部超音波検査,便潜血検査も,ルーチンに実施してよい検査と考えます。症状に応じて,自己免疫疾患関連の血液検査や,各種培養検査も行います。
ここから先は,患者ごとに適応を考えます。全身のCT検査は比較的容易に実施できる検査ですが,特に若年者の場合には放射線被ばくを考慮する必要があります。ガリウムシンチグラフィーは不明熱の熱源検索に保険適用がありますが,検査に2日以上を要することや,被ばくの問題,画像の解像度の低さから,最近は実施することが少なくなっています。FDG-PET検査は,特にCT検査と組み合わせて用いれば,1回の検査で隠れた感染巣や悪性腫瘍を検出できる実に有用な検査ですが,今のところ不明熱の熱源検索には保険適用がありません。血液検査による腫瘍マーカーの検索も,臨床上の有用性が低く,保険適用外ですので,ルーチンに実施するべきではないでしょう。
結局,どこまで原因検索のための検査を行うかはケース・バイ・ケースですが,その診断プロセスは内科医の醍醐味でもあります。コスト・ベネフィットを考慮した上で,利用可能な情報をなるべく多く集めつつ,臨床の勘にも頼りながら進めております。

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