【Q】
58歳,女性。発症4年,Hoehn-Yahr分類3度,オフ症状なし。腰曲がり(camptocormia)の進行で神経内科より紹介,アゴニスト中止で改善。さらなる改善と運動症状コントロールを目的に両側視床下核-脳深部刺激(subthalamic nucleus-deep brain stimulation:STN-DBS)手術施行。術後は腰曲がりと全運動症状消失,L-ドパのみで投薬刺激調整し,逆紹介しました。
早期介入の有用性が示される一方(Group ES:N Engl J Med.2013;368(21):2038),DBS手術導入に少なくとも5年の臨床経過を基準とする論文もあります(Okun MS, et al:Expert Rev Neurother.2010;10(12):1847-57)。パーキンソン病へのDBS手術早期導入に関する考え方を田附興風会医学研究所北野病院・戸田弘紀先生に。
【質問者】
太組一朗:日本医科大学武蔵小杉病院脳神経外科講師・医長
【A】
パーキンソン病に対する外科的治療の導入は,一般的に発症後5年以上経過した時期に考慮されます(文献1)。パーキンソン病とその類縁疾患の中で,脳深部刺激療法(DBS)を含めた外科的治療の効果がエビデンスとして確立しているのはパーキンソン病に限られるので,臨床経過からも診断が間違いないことを確認するためです。
しかし,本例はパーキンソン病の診断が確定し,50歳代と若く,ドパミンアゴニストが腰曲がりに関与した可能性があるため,薬物治療の選択にも制限が加わっています。このような場合は非薬物療法を検討せざるをえず,運動症状改善のために発症後4年でもDBSを導入してよいと思います。
腰曲がりに対するDBSの効果は確立しておらず(文献2),必ずしもよい結果が得られるとは限りませんが,本例では姿勢異常が進行する前に治療が行われたことも良好な効果につながったのではないでしょうか。DBS早期介入の有効性を示唆する症例であったと考えます。
さて,パーキンソン病の発症5年以内にDBSの導入が必要となる症例は稀ですが,ご指摘のようにドイツ,フランス,オランダの研究(文献3)ではパーキンソン病発症後4年以降,ジスキネジアや日内変動の発症3年以内の症例を対象に,両側視床下核(STN)のDBSを行って内科的治療群を上回る治療効果を報告しています。一方でcontinuous dopaminergic drug deliveryを可能にするドパミンアゴニストの徐放製剤や貼付剤が使用可能となり,薬物療法の選択肢も広がっています。
現在は発症5年前後から10年までの症例に対して多くの治療選択肢が存在しています。本例のようにアゴニストの服用が制限されたり,若年発症でオン時のジスキネジアや著しい症状変動が比較的早い段階で現れる症例では,早期であってもDBSが有効な治療法になりうると考えます。
1) Defer GL, et al: Mov Disord. 1999;14(4):572-84.
2) Upadhyaya CD, et al: Neurosurg Focus. 2010; 28(3):E5.
3) Schuepbach WM, et al: N Engl J Med. 2013; 368(7):610-22.