現在不妊症の原因は,女性因子が1/3,男性因子が1/3,両方の問題が1/3である。つまり,男性因子による不妊症は全不妊症の半分に存在すると考えられる。その中で造精機能そのものに異常があるものが約70%に認められるが,染色体あるいは遺伝子異常,停留精巣,精索静脈瘤といった原因がはっきりしているものはそのうちの30%にすぎない。
1999年に顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)が報告され(文献1),それまでは絶対不妊と考えられていた夫婦間に挙児が可能な時代が来ている。これには顕微授精(ICSI)の技術が普及し,安定した技術となったことも大きく貢献している。筆者の施設でも2004年からMD-TESEを施行している。ただ,行っている施設あるいは泌尿器科医が多くなく,世の中にこの治療法自体が認知されていないため,挙児を諦める夫婦が多く存在していると考えられる。
一方,このMD-TESEはあくまで精巣内から精子を探すという手法であり,精子が存在して初めて成功することになる。造精機能の改善に対する治療はまったく進んでいないと言っても過言ではない。MD-TESE不成功例に対するホルモン療法の有用性が報告され(文献2),行き詰まっているMD-TESEによる治療に光明が差しつつあるが,根本治療とまでは至っていない。ES細胞やiPS細胞の研究が急速な進化を遂げているため,これらの臨床応用が期待されるかもしれない。
1) Schlegel PN:Hum Reprod. 1999;14(1):131-5.
2) Shiraishi K, et al:Hum Reprod. 2012;27(2):331-9.