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ES細胞

No.4724 (2014年11月08日発行) P.46

汐田剛史 (鳥取大学遺伝子医療学教授)

登録日: 2014-11-08

最終更新日: 2016-10-26

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embryonic stem cell(ES細胞)は,受精6日後の胚盤胞期の胚の内部細胞塊よりつくられる幹細胞株を言い,体性幹細胞に対し胚性幹細胞に分類される。マウスES細胞の樹立は1981年,英国ケンブリッジ大学のマーティン・エヴァンズ,マシュー・カウフマンらや,米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校のゲイル・マーティンらが報告した。ES細胞は,胎盤などの胚体外組織以外のすべての身体の組織に分化し,無限に増殖できる細胞である。
マウスES細胞は1989年,マリオ・カペッキ,マーティン・エヴァンズ,オリヴァー・スミティーズらにより,ノックアウトマウス作製に利用された。ノックアウトマウスは,遺伝子機能の解析に現在なくてはならない方法として汎用されており,これによって彼らは2007年のノーベル医学・生理学賞を受賞している。
ヒトES細胞は1998年,米国ウィスコンシン大学マディソン校のジェームズ・トムソンによって樹立された。ヒトES細胞を用いた再生医療は,現時点ではまだ開発中であり実現はされていない。2010年10月,米国ジェロン社が脊髄損傷の患者4人に対してES細胞を使用した臨床試験を開始したが,2011年11月に撤退を発表した。
ヒトES細胞では,受精卵から作製するためヒト胚の滅失につながるという倫理的問題や,他人のES細胞からつくった組織や臓器の細胞を移植した場合,拒絶反応が起こるという問題が危惧される。山中伸弥はこれらのES細胞の持つ問題点を克服するため,iPS細胞の開発に取り組んだ。ES細胞の臨床応用は倫理的側面により困難視される傾向にあるが,iPS細胞と遺伝学的には酷似しているため,研究的価値は高い。

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