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ダイレクトリプログラミング

No.4739 (2015年02月21日発行) P.57

汐田剛史 (鳥取大学遺伝子医療学教授)

登録日: 2015-02-21

最終更新日: 2016-10-26

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細胞の初期化の誘導には,転写因子による分子ネットワークの変更が必要とされる。最近,細胞の特異的な分化の鍵となる転写因子群を導入することによって,体細胞から多能性幹細胞であるinduced pluripotent stem cells(iPS細胞)だけでなく,心筋,神経,肝細胞などの分化細胞を直接誘導できることが報告された。すなわち,分化細胞を多能性幹細胞を経ることなく別の分化細胞に直接誘導できることが報告されており,これをダイレクトリプログラミングと呼んでいる。ダイレクトリプログラミングは,in vitroのみならず生体内でも検討されており,可能となりつつある。今後,生体内リプログラミング法が開発され,実用化されれば,遺伝子再生治療の一大領域へと発展していくと期待される。
ダイレクトリプログラミングは,初期化を経ることなく別の分化細胞に誘導されるため,分化誘導に要する時間を大幅に短縮させることが可能となる。また,分化細胞が初期化を経ずに別の分化細胞へ変換するため,がん化のリスクが低いのではないか,とのメリットが期待される。ES細胞で働く転写因子が初期化を引き起こすように,分化細胞で働く転写因子はその細胞から別の分化細胞へダイレクトリプログラミングを引き起こすことが判明している。しかし,その詳細なメカニズムは不明であり,初期化やダイレクトリプログラミングに関与する転写因子の機能や,転写因子によってもたらされる分子ネットワークの形成機序の解明が,再生医療の開発には重要である。発生,分化,再生,がん化などに密接に関与する細胞内機構として,転写因子の分子ネットワークの研究は非常に重要である。

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