20世紀における抗菌薬の進歩により肺炎による死亡は減少したが,人口の高齢化により肺炎死亡者数は再度増加し,現在は日本人の死因の第3位になっている。広域抗菌薬の多用による耐性菌の増加は,抗菌薬のみでの肺炎の制圧が困難であることを表している。
肺炎の原因として最も多いのが肺炎球菌感染である。肺炎球菌性肺炎は敗血症や髄膜炎を伴うことがあり,重症化しやすい。肺炎球菌はグラム陽性双球菌で莢膜に覆われている。莢膜は多糖体で形成され100種類近くの血清型が存在し,莢膜多糖体に特異的なIgG抗体が肺炎球菌に対する感染防御において重要な役割を担っている。肺炎球菌ワクチンはこの莢膜多糖体を標的とし,成人においては23価肺炎球菌莢膜多糖体型ワクチン(PPV23)が多く使用されている。PPV23はB細胞を刺激して免疫を誘導するため,B細胞機能が未熟な小児ではPPV23は使用できず,13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)を用いる。
高齢者施設入所者を対象にPPV23の効果を検討した臨床試験において,PPV23は肺炎球菌性肺炎の発症と死亡を抑制した(文献1)。現在,65歳以上の高齢者や介護施設入所者など肺炎のハイリスクグループには,肺炎球菌ワクチン接種が推奨されている。また,肺炎球菌性肺炎はインフルエンザウイルス感染後に合併しやすく,インフルエンザワクチンの定期接種も併せて行うことが重要である。
1) Maruyama T, et al:BMJ. 2010;340:c1004.