ナトリウム(Na)利尿ペプチドは,Na利尿作用,血管拡張作用,RA系阻害作用,交感神経系抑制作用を持ち,高血圧や心不全の治療に有効である。心不全治療薬として臨床応用されているhANPは,血中半減期が短いため点滴静注薬として使用されている。一方,経口薬としてNa利尿ペプチド分解酵素である中性エンドペプチダーゼ(NEP)阻害薬の開発が進められ,ARBとNEP阻害薬の合剤としてLCZ696が開発された。LCZ696は,軽度~中等症の高血圧患者を対象とした臨床研究(文献1)で,ARBに比して坐位収縮期・拡張期血圧および24時間血圧を有意に低下させた。
心不全治療薬の有効性を検討した臨床研究として,左室駆出率が低下(40%以下)した心不全(HFr
EF)を対象としたPARADIGM-HF試験(文献2),左室駆出率が保持(45%以上)された心不全(HFpEF)を対象としたPARAMOUNT試験(文献3)がある。前者では,LCZ696はACE阻害薬に比して心血管死または心不全による入院を有意に低下させた(P<0.001)。一方,いまだ有効な治療法が確立されていないHFpEFを対象とした後者では,一次エンドポイントである投与12週後のNT-proBNP値がARB群に比してLCZ696群で有意に低値であった(P<0.005)。以上から,LCZ696は十分な降圧効果を有し,HFrEFのみならずHFpEFにおいても有効な新規心不全治療薬として期待される。
1) Ruilope LM, et al:Lancet. 2010;375(9722): 1255-66.
2) McMurray JJ, et al:N Engl J Med. 2014;371(11): 993-1004.
3) Solomon SD, et al:Lancet. 2012;380(9851): 1387-95.