同種造血幹細胞移植における移植片対宿主反応病(GVHD)は,特有の細胞免疫による抗腫瘍効果と合併症を併せ持つ重要な病態で(文献1,2),その管理は厳重な予防と,必要に応じた早期の治療介入が推奨されている。一方,GVHDの治療薬は副腎皮質ステロイド以外に有効性の証明された薬剤はなく,ステロイドに不応の場合は治療に難渋する。
ヒト由来間葉系幹細胞(MSC)治療(テムセル)は2015年11月に保険収載されたわが国初の再生細胞治療である。健常成人の骨髄より採取・分離して,培養後に精製され投与されたMSCは,生体内で炎症部位を感知し,遊走してPGE2やIDOの産生とともに制御性T細胞を誘導するなど,複数の機序によってドナー由来活性化T細胞機能を抑制する。また,他家細胞にもかかわらずMSC自体の抗原提示性は弱く,HLA適合を要しない。
わが国の標準的治療に抵抗を示した14症例に対する第1/2相試験,第2/3相試験(25例)では,治療開始後4週間以内の奏効率が60~92.9%,試験開始後24カ月生存率は64.3%(文献3),52週後の生存は25例中12例(48%)で(文献4),MSC移植に関連する大きな合併症はみられていない(文献3,4)。以上より,きわめて高額な薬価の点を除けば広く臨床応用が可能となる薬剤で,治療に難渋する急性GVHD治療に新たなエビデンスが発信されるかもしれない。
1) Horowitz MM, et al:Blood. 1990;75(3):555-62.
2) Kanda Y, et al:Leukemia. 2004;18(5):1013-9.
3) Muroi K, et al:Int J Hematol. 2013;98(2):206-13.
4) Muroi K, et al:Int J Hematol. 2016;103(2):243-50.