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在宅での高齢者の排便管理【まず環境整備を含むケアによって排便状況の改善を試みる】

No.4811 (2016年07月09日発行) P.55

関本 剛 (関本クリニック副院長)

登録日: 2016-07-09

最終更新日: 2016-12-15

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【Q】

在宅医療をしていると,高齢者の便秘の対応に難渋することがあります。実際の在宅医療での排便管理の方法について,関本クリニック・関本 剛先生のご教示をお願いします。
【質問者】
清水政克:清水メディカルクリニック副院長

【A】

在宅高齢患者の排便管理における薬物療法としては,一般的な排便管理同様,便の性状(図1)と患者の腸蠕動音(亢進か減弱か)から薬剤の種類や量を選択していきますが,高齢者は薬剤による有害事象が多いという事実を考慮する必要があります(文献1)。たとえば下剤が効きすぎて水様便が頻回に排泄されるような状態は,患者にとって望ましい状態とは言えません。少量から使用して,無理なく排便でき,後始末も手間がかからないちょうどよい硬さの便を出すことを目標とするべきです。
高齢者ではトイレへ行くことが困難となり,それだけで便秘をきたしていることもめずらしくありません。また,床上生活を余儀なくされている患者にとって,排便は非常にストレスのかかる作業となります。トイレへの安全な導線確保や,衛生的な排泄環境,適切な頻度での排便処置など,環境調整やケアが,薬物療法以上に効果がある可能性を常に考えておく必要があります。環境整備やケアで主役となるのが訪問看護師や訪問介護員(ヘルパー)であり,その際,在宅医に求められるのは,患者が利用できる医療資源に対する知識と,訪問看護師や介護員との綿密な連携であり,連携の善し悪しで在宅患者のQOLが大きく左右されると言っても過言ではありません。
在宅では,入院環境ほど患者と医療者は長い時間接することができません。一方で患者は,在宅のほうがより自分のペースで医療者と対話することができ,医療者は,薬の置き場所や残薬の数,住居の間取りなどから,外来や病棟で患者から聞いているだけでは知りえない患者個別の薬剤使用状況や排便環境を把握できます。頑固な便秘に対する下剤など,薬剤を使うべき症例が多いのも事実です。しかし,患者との対話やそれに基づいた診察によって排便障害をできるだけ正確に把握し,想定される状況に応じた環境整備やケアを提供することにより,画一的に処方されていた薬剤が不要となり,減量・中止しうる場面も少なくありません。下剤などの薬物はあくまでサポートと考え,まず環境整備を含むケアによって排便状況の改善を試みることが最も重要であると考えます。
欧米では,排便障害は患者のQOL低下のみならず,甚大な医療コストの損失につながっていると報告されています(文献2)。在宅医や訪問看護師,介護員が連携して指導やケアにあたり,必要時には専門機関へ紹介するなどして,病院と地域を含めたチーム医療の中でコーディネーターとしての役割を果たすことによって,患者のQOL向上だけでなく,医療コスト削減にもつながっていくことが期待できます。

【文献】


1) Gurwitz JH, et al:JAMA. 2003;289(9):1107-16.
2) Shah BJ, et al:Am J Gastroenterol. 2012;107(11):1635-46.

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