(質問者:岐阜県 K)
医師法第17条は「医師でなければ,医業をなしてはならない」と医師の「業務独占」を規定しています。医師法第17条の規制の対象となる医療行為(医行為)は,講学上,医師のみに許される絶対的医行為と,医師の指示のもとに一定の有資格者に許される相対的医行為にわけて理解されています。保健師や助産師,看護師は,保健師助産師看護師法により,医師の指示のもとに行う診療の補助が認められ,さらに視能訓練士には保健師助産師看護師法の例外として眼科検査などの診療の補助が認められています(文献1,2)。
医師に業務独占を認めて無資格者による医療行為を禁止しているのは,医学的知識の乏しい者による医療行為により,国民に健康被害や保健衛生上の危害が発生することを予防するためです。このような趣旨は,医師の指示のもとに診療の補助を行う各専門職(国家資格を有する有資格者)にも当てはまり,それぞれの業法や省令において,厳格な資格要件や業務内容が定められています。そして,医療行為の実施にあたっては,当該行為に対応した資格要件が必要となり,医師法や各種業法の規定に違反した者には刑事罰が課される可能性もあります。
ご質問の眼科領域に関わる各検査は,医師のほか,看護師,視能訓練士といった有資格者だけが,それぞれの業法の範囲内で実施することになります。無資格者はもちろん,臨床検査技師などの有資格者であっても,その業務範囲を超えて眼科領域の検査を行うことはできません。臨床検査技師の業務内容は「制限列挙」となっています(文献3,4)ので,臨床検査技師等に関する法律(臨床検査技師法)および同法施行規則に認められた「眼底写真検査(散瞳薬を投与して行うものを除く)」以外の眼科領域の各種検査(医療行為)を臨床検査技師が実施することには問題があります。
もっとも,刑罰をもって禁止しなければならない「医療行為」の内容は,具体的場面によっても異なります。たとえば,医師が行う「診断」の前提として,正確な検査が求められる場面では,十分な知識・技術を有しない無資格者がこれを行うことは許されないと考えられますが,それ以外の場面で,無資格者が視力検査を行ったとしても,それ自体で健康被害や保健衛生上の危害を招来するとは考えにくいと言えます。
また,「医療行為」と評価できるか否かについては,医療機器の進歩,安全性の向上,社会的要因によっても変化します。医療的知識・技術を有しない無資格者が行っても健康被害や保健衛生上の危害を生ずるおそれがないか,あるいは著しく危険性が低く有資格者以外が実施しなければならないような社会的必要性が認められる場合には,例外的に違法性が阻却されるケースも考えられます。
なお,ご質問にありました視野検査,眼圧検査,眼底写真検査については「診断」の前提として行われるのが通常ですので,有資格者がその業法の範囲内で行うのが原則です。この点,眼圧検査(非接触型)は,健康診断において眼底写真検査と併せて実施することも多く,その安全性も高いので,臨床検査技師が,これを実施することができないかどうかについて,議論があります。しかし,現状において,眼圧検査を医療行為ではないとして無資格者でも実施可能と言い切ることは困難でありますので,この点について必要があるのであれば,臨床検査技師法施行規則の改正が望ましいと考えます。
【文献】
1) 保健師助産師看護師法第5条, 第37条(反対解釈).
2) 視能訓練士法第17条, 第18条.
3) 臨床検査技師等に関する法律第2条, 第20条の2.
4) 臨床検査技師等に関する法律施行規則第1条.
【回答者】
岡部真勝 リョマホ法律事務所 弁護士
蒔田 覚 仁邦法律事務所 弁護士