ゲノム医療の課題について議論していた厚労省の有識者会議が22日に意見を取りまとめた。ゲノム医療を推進するために必要な社会環境を整備するため、ゲノム情報の取り扱いや提供に関する実態把握、国民の意識調査の早急な実施が必要だとしたほか、ゲノム情報により差別など不当な扱いを受けることがないような対応を求めた。
こうした議論が行われた理由の1つに、「消費者向け遺伝子検査ビジネス」の拡大がある。医師を介さずに検体を採取して解析された遺伝型の一部と罹患リスク、体質等の統計データを比較して提供する遺伝子検査ビジネスについては、検査の質や消費者の理解などに対して日本医学会、日本医師会などから強い懸念が示されている。
日医の生命倫理懇談会は今年5月、遺伝子診断・治療に関する答申をまとめた。それによると、米国や欧州では臨床的有用性に問題が大きいとして遺伝子検査商品は販売されていないが、日本では規制はない。代表例の“肥満遺伝子検査”は、遺伝型に合わせたとする生活指導のほか、サプリメントの販売、運動プログラムなど有償サービスも提供されるが、「これらが各遺伝型との間に有意性が認められたという報告はない」と明記した。
政府は昨年7月、ゲノム医療の研究においてがんや難病に重点化する方針を打ち出しており、抗がん剤選択や再発リスク予測など一部で実用化が進む。科学的根拠に基づかない遺伝子検査が横行することは国民の健康に悪影響を及ぼす懸念があるのみならず、ゲノム医療に対する社会的信頼が損なわれることで研究の推進が滞る可能性がある点でも看過できない。国民が安心して先端医療の恩恵を享受できるよう、体制整備を急ぎたい。