(質問者:新潟県 H)
高齢期になると,種々の認知症性疾患が出現します。アルツハイマー型認知症をはじめとして,血管性認知症,レビー小体型認知症,神経疾患に伴う認知症,正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH),慢性硬膜下出血など数え上げればきりがありませんが,私はその中で,アルツハイマー型認知症だけは,脳の病気としてとらえるべきではないということを年来主張しています。
もっとも,私の臨床経験で言えば,物忘れ外来で65歳以上の初診者をみると,アルツハイマー型認知症は全体の5割,血管性認知症との混合型は2割の割合でみられ,初診者を85歳以上の超高齢者に限定すると,混合型を併せたアルツハイマー型認知症は全体の9割以上を占めますので,超高齢者に限って言えば,「すべての認知症は病気でない」と言っても過言ではありません。
それほどに,アルツハイマー型認知症をどのように理解するかは,高齢者の認知症医療を考える上で,きわめて重要なことだと思われます。
周知のように,アルツハイマー型認知症の脳病変は,大脳灰白質領域でのアミロイドベータ蛋白(amyloid beta protein:Aβ)の蓄積,神経細胞内のリン酸化タウの貯留およびそれらの病変によって,大脳皮質の神経細胞が広範に損傷・破壊され,ついには消失していくことで特徴づけられます。これらの脳病変が全脳にわたっておびただしく高度に出現していると,神経病理学的にアルツハイマー型認知症と診断することになります。
しかし一方で,これらの脳病変は「老化性脳病変」とも別称されるように,人間では加齢とともに必ず出現してくるのが特徴です。生物としての人間の老化現象に必然的に伴う現象と言えます。
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