2007年、10~20代で麻疹が流行し、2013~14年には先天性風疹症候群児が40余人出生し社会問題となった、これらは主に当該疾患のワクチン未接種による発症であり、成人(年長者)にVPD(Vaccine Preventable Diseases)の概念が浸透していたら防ぎ得た現象であろう。
VPDは、小児と成人でその対策が異なる。簡記すれば、小児は規定の全ての接種を規定通り終えること。成人は、1次ワクチン効果不全(接種したワクチンが活着しない)、同2次不全(活着したワクチンの抗体が経年的に減衰し効果がなくなる)、および、接種漏れ(接種を忘れた)等の対策である。
過去にワクチンは「小児が受けるもの」、一度規定の接種を受けると「一生もの」という考えが存在した。成人は過去に受けたワクチンが、現在発症阻止が可能である抗体を保有しているか、全く無関心である。理論上わずかながら存在する1次・2次効果不全を確認する制度が現存しない。成人の日常診療においてVPDは希有な疾患で、医師の診療経験が乏しいと診断が遅れ、その間抗体非保有者(家族の乳幼児など)への感染源となる。成人のVPD罹患は、学業、経済活動、社会の運営・維持に影響を与える。
対策として、一定の年齢で生活習慣病予防健診や職場健診にVPDの保有抗体検査を組み込むことが必要である。疫学的見地から、一定年齢での成人の再接種制度を導入することも選択肢のひとつである。
小児生活習慣病、先天性循環器疾患など小児期医療から成人期医療への移行が課題になっているように、感染症予防対策も乳幼児から高齢者まで連続して行われるべきものである。今後予防接種は、小児予防接種と成人予防接種の2つの考えが必要となろう。現在のワクチンの性状、接種制度では、成人のVPD対策は小児より難しく、VPDは成人が罹患する疾患となりかねない。対策を円滑に切れることなく進めるためには、小児科と内科(成人診療の全科)の連携を密にし、共同作業として進めることが望ましい。