厳しい初期治療の甲斐もなくがんの再発・転移をきたし,がんの根治が望めない状況となった進行がん患者とその家族への対応は,一般の医療従事者にとって,医学的にも心理的にも困難を覚える場合が多い。とりわけ,患者の症状の背景に心身相関が潜在していると,その病態を理解することは難しく,患者・家族はもとより医療従事者も疲弊・消耗しやすい。
本稿では,オピオイド(医療用麻薬)を用いた疼痛の制御や消化器症状の緩和を病棟・外来で実践しつつ,地域の実地医家ならびに在宅ケアスタッフと協力して,在宅がん患者の訪問診療および看取りを含む往診にも注力している心身医学認定医の立場から,進行消化器がんにおいて優勢な身体症状に対する緩和ケアの要諦と心身医学的視点(表1)からの対応について概説する。
一般に,「ズキズキとうずくような鋭い痛み」(体性痛)や「圧迫されるような重い鈍痛」(内臓痛)などの侵害受容性疼痛に対しては,アセトアミノフェン/NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や弱/強オピオイド(医療用麻薬)を投与し,「ビリッと走るようなチリチリ・チクチクする痛み」とされる神経障害性疼痛に対しては,プレガバリンなどの鎮痛補助薬を投与する,という図式をよく見かける。しかし,それはあくまでも目安であって,がんが進行するにつれて主力となる鎮痛薬はやはり強オピオイドであり,最終的には多剤形かつ高用量の投与が可能なモルヒネ(静注/皮下注)が使用される。
軽度の痛みが出はじめた時期には,アセトアミノフェン/NSAIDsの頓用から開始し,痛みの悪化に応じて極量近傍まで迅速に増量する。特に,アセトアミノフェンの極量は4000mg/日であり,通常体躯の成人であれば500~1000mg/回の内服が推奨される。COX阻害薬も少量では効果が乏しいので,迅速に極量まで増量してよい。いずれの場合も肝腎機能の状態を常に考慮し,薬剤性あるいはストレス起因性の消化性潰瘍に対する怠りない注意が必要である。
さらに痛みが増強してくれば,弱オピオイドであるトラマドール25mg/回から追加頓用を開始し,1日4回を超えるようなら持効性製剤に切り替え,150mg/日まで増量しても鎮痛効果が不十分であれば強オピオイドに切り替えたほうがよい(表2)1)。同じく弱オピオイドに位置づけられるリン酸コデインは,鎮咳作用以外でトラマドールを凌駕する点は少ない。
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