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(1)多剤耐性菌の歴史的変遷と今日的課題 [特集:多剤耐性菌を巡る諸問題]

No.4703 (2014年06月14日発行) P.18

荒川宜親 (名古屋大学大学院医学系研究科分子病原細菌学/耐性菌制御学教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-30

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  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に加え,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌,さらに多剤耐性緑膿菌(MDRP)やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)が,国内外の医療現場で大きな問題となっている

    世界的に蔓延する多剤耐性菌の今日的課題として,監視体制(畜水産食品,環境など),抗菌薬の適正使用における教育訓練(医学,農学,獣医学)などの強化が不可欠である

    1. 耐性菌出現の黎明期─1920~60年代前半

    1 ペニシリン耐性黄色ブドウ球菌

    ペニシリンは,1929年にFlemingにより発見されたことで知られているが,40年にFloreyとChainによりペニシリン(当時はペニシリンGやペニシリンNなどの混合物)を単離する方法が開発され,各国でペニシリン製剤が,軍用品などとして製造されはじめた。
    わが国におけるペニシリンの開発は,第二次世界大戦末期の,1943年12月にドイツから入手した医学雑誌中のペニシリンに関する記事を参考にして開始された。44年2月に,陸軍軍医学校において医学,薬学,農学,理学など各学問分野の専門家を集め「第1回ペニシリン委員会」が開催され,製造法に関する検討が行われた。同年5月には早くも粗精製品ではあるもののペニシリン(当時は,碧素と呼ばれていた)が製造され,実際に患者に投与し劇的な効果を上げたとされている。その後,精製する技術が開発され,まず軍用に製造が始まり,40年代後半には,民生用に工業的大量生産が開始された。このような中で,既に40年代にはペニシリン耐性を獲得した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が海外で相次いで報告されはじめ1) 2) ,それらは,ペニシリナーゼ産生株や現在のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)の起源となった株の可能性もある。

    2 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

    ペニシリナーゼ(PC1型)を産生する黄色ブドウ球菌が増加するに伴い,Beecham社は1950年代後半に,ペニシリナーゼに安定なメチシリンを開発し販売を開始した。しかし,61年には早くもメチシリン耐性株が出現しはじめ3) 4) ,それらは,現在のMRSAの起源になったと考えられている。

    ●文献
    1) Abraham EP, et al:Nature. 1988;10(4):677-8.
    2) Kirby WM:Science. 1944;99(2579):452-3.
    3) Dowling HF:Clin Pharmacol Ther. 1966;2:572-80.
    4) Stewart GT:Br Med J. 1961;1(5229):863-6.

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