高齢者肺炎は,若年者に比し,非典型的な臨床症状をとることが多い
▶高齢者肺炎において,誤嚥は重要な要素である
重症度,患者背景,耐性菌のリスクを考慮して,抗菌薬を決定する
社会的背景も考慮して,過剰な治療にならないように留意する
わが国における肺炎の死亡率は,2011年において人口10万当たり98.8で,脳血管障害を抜いて全死亡原因の第3位であるが,死亡例の98%は60歳以上である1)。図1は,筆者らの施設における成人肺炎入院患者の年齢層を1997~99年の3年間と2010~12年の3年間で比較したものであるが,70歳以上の高齢者の占める割合が10年間で45%から67%にまで増加している。
このような超高齢社会を背景として,2011年に日本呼吸器学会は,「医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)」という新しい肺炎の概念を提唱した2) 。これは,市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)と院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP)の中間に位置する肺炎であり,高齢者肺炎の多くはこの範疇に入るものと考えられる。
高齢者肺炎は,若年者に比して臨床症状においていくつかの異なる点がある。19世紀末の米国の著名な内科医であるSir William Oslerは,“pneumonia is the friend of the aged.”(肺炎は老人の友である)という有名な言葉を残しているが,その著書3)の中で高齢者の肺炎の特徴について,成人の肺炎に比して発熱が軽度であること,悪寒を伴わずゆっくりと発症すること,精神神経症状が顕著なこと,を挙げている。これらは,現在にも当てはまる所見である。
高齢者肺炎では,初発症状として食思不振や全身倦怠感などの非特異的症状がみられることが多い4) 。また,発熱は軽微で,まったく認められないこともある。精神症状が前面に出ることがあり,何となく元気がない,普段より反応が鈍いなどにより周囲に気づかれることもある。患者からの訴えが少ないので重症化してから初めて医療機関を受診する場合も多い。また,脱水や電解質異常を起こしやすいのも特徴である。
誤嚥は,高齢者肺炎において重要な要素である。誤嚥には,明らかなむせの認められる顕性誤嚥と,むせの認められない不顕性誤嚥があるが,高齢者では後者がしばしば認められる。高齢者は誤嚥の危険因子を複数有していることも多い。Teramotoら5) によると,70歳以上の肺炎入院患者のうち80.1%に誤嚥が認められ,福山ら6) の検討では,在宅で寝たきりの高齢者に発症した肺炎の92%に誤嚥が関与していた。
高齢者肺炎は,難治化しやすく,また反復しやすいことも特徴である。特に嚥下機能が廃絶している患者では,誤嚥性肺炎を予防することは不可能であり,胃瘻造設を行っても予後改善には結びつかない7)。
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