わが国では1990年代以後にギャンブル依存が増加し,欧米に比して有病率が高い
ギャンブル依存は,心理社会的問題が進行性に悪化する
ギャンブル依存の病理は,アルコール・薬物依存と共通する部分が多い
大多数はギャンブル依存のみだが,併在疾患を持つ群もある
ほかの依存症と同様の精神療法的対応が有効である
集団精神療法,内観療法,認知行動療法などが適応である
当事者が行う自助グループの長期活用が再燃防止のために望ましい
ギャンブル依存とは,ギャンブルを続けるうちに,ギャンブルへの強烈な欲求(craving,渇望)が反復出現するようになり,自分の意思でギャンブル行為を制御できなくなる(out of control)病態である。わが国では,1990年代のいわゆるバブル経済崩壊後から,徐々に精神保健福祉センターのようなメンタルヘルス相談の場に登場してきた1)。アルコール・薬物依存と臨床的な共通性があるギャンブル依存は,脳の報酬系に共通の病理を示唆する知見が集まったことで,2013年5月に公表された米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)の診断基準DSM-5の改訂により「gambling disorder」(ギャンブル障害)の診断名でアルコール・薬物依存と同じカテゴリーに分類されることとなった2)。
欧米での有病率は1.2~2.1%程度3)だが,近年のわが国における厚生労働省科学研究で,欧米の疫学調査で使うスクリーニングテストを活用したところ,成人男性の9.6%,成人女性の1.6%が該当した4) 。この高い数値は,わが国ではパチンコやスロットが“遊技”の扱いで広く社会に浸透していて,成人なら誰でも入場できるギャンブル場が身近なところで毎日開かれている環境があるため,と考えられる。
ギャンブルへの執着が多額な借金をもたらし,夫婦関係,親子関係を悪化させ,別居,離婚,失職,退学,破産することはめずらしくない。時に有能な公務員が公金を着服して懲戒免職になる,正義感あふれた社会運動家が活動団体の資金を使い込む,平凡な主婦が他人のパチンコ玉を盗んで警察に突き出されるなどの不法行為を犯すまでになる。そして,涙を流し心底から反省したはずの人に再び強烈な渇望が反復出現し,ギャンブル問題の再燃に,自分ではどうしようもなくなって自殺を企てることもある5)。アルコール・薬物依存で依存物質への慣れ(耐性)が生じるのと同様,ギャンブル依存では掛け金や借金の高額さに慣れが生じる。これが心理社会的問題が進行性に悪化する要因となっている。参考までにDSM-5のgambling disorder(ギャンブル障害)の診断基準を試訳して表1に示す。
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