ヒトにとって酸素は必要不可欠で,様々な医療現場で使用されている。一方で,明確な目標もなく漫然と酸素が投与されている現状が報告されてきている。酸素は安全・無害ではなく,活性酸素による組織毒性に代表される有害性も持ち合わせている。近年,特定の患者群において,不必要な酸素投与と予後の増悪に関連があるとの報告も散見されはじめている。重症患者における酸素療法はこの10年で様変わりの様相を呈している。
具体例として,急性冠症候群(ACS)患者に対する初期診療において,2005年のガイドラインでは,「治療開始後6時間まではすべてのACS患者に補助的に酸素を投与することは妥当」とされていた。しかし,15年に発表された国際コンセンサス最新版では,「正常酸素分圧のACS患者に対してルーチンに酸素を投与しないことを提案する」と記されている。また,集中治療領域では,複数の研究で制限酸素療法が導入され,その安全性が証明されたところである1)2)。周術期においては,以前は高濃度酸素投与が術後創部感染・悪心・嘔吐の予防に有効との報告もあったが,最近の研究ではこれらの効果も否定されつつあり,高濃度酸素が有益である根拠はないのが現状である。
今後は,周術期を含めた重症患者において,酸素化の状態をパルスオキシメータ―などのモニターで監視しつつ,不必要な酸素投与を制限する必要があると思われる。
【文献】
1) Suzuki S, et al:Crit Care Med. 2014;42(6):1414-22.
2) Panwar R, et al:Am J Respir Crit Care Med. 2016; 193(1):43-51.
【解説】
鈴木 聡*1,森松博史*2 *1岡山大学麻酔・蘇生学 *2同教授