脳血管の病変は,血管の破綻により,くも膜下出血や脳内出血などの出血性脳卒中の,また閉塞により脳梗塞の原因となることはよく知られている。しかし,無症候性の脳血管病変がどのように発育,増大し,破綻あるいは閉塞するのか,個々の症例における,それぞれのリスクの正確な評価法はいまだ確立されていない。
近年,この課題の解決に向けて数値流体力学(C FD)解析法の応用が注目されている。CFD解析法は,流体運動をコンピュータでシミュレーションするものであり,これにより血管壁に対し法線方向へ作用する圧力や,接線方向へ作用するせん断応力などの流体力学的パラメーターが任意の部分で得られる。脳神経外科領域では,既に脳動脈瘤,脳動静脈奇形,内頚動脈などの脳主幹動脈狭窄の解析にも利用されている。中でも,解析条件の設定が比較的容易な脳動脈瘤での応用が進んでおり,破裂リスクに関与するパラメーターが解明されつつある。すなわち,脳動脈瘤の血管壁の菲薄化部分が1拍動中に大きい圧力差を有すること1)や,脳動脈瘤コイル塞栓術後の再開通率と動脈瘤への流入血流量が相関すること2)が報告されている。
今後のさらなる工学技術の進歩と研究結果の蓄積により,複雑な血管構築を有する病変や,動脈瘤以外の脳血管疾患においてもリスク解析が可能となり,治療成績のさらなる向上に寄与することが期待されている。
【文献】
1) Suzuki T, et al:Neurosurgery. 2016;79(4):589-95.
2) Sugiyama S, et al:Stroke. 2016;47(10):2541-7.
【解説】
村山裕明*1,金丸和也*2,川瀧智之*3,木内博之*4 *1山梨大学脳神経外科 *2同講師 *3同准教授 *4同教授