高血圧に関連した動脈硬化性疾患が増加している。また,腎硬化症を原疾患とする末期腎不全症例の症例数も増加傾向が続いている
細動脈硝子化病変や動脈硬化病変は,蛋白尿や腎機能低下が軽微な群にも認められる
腎硬化症は抵抗血管である輸入細動脈の障害が生じる前に治療を行う必要がある
生活習慣の是正とレニン・アンジオテンシン(RA)系を介した降圧療法が重要である
高齢化する社会を背景に,高血圧に関連した動脈硬化性疾患が増加している。その中でも,腎硬化症は腎不全の原因疾患としても重要であり,現在注目を集めている病態である。様々な疫学研究から,わが国における高血圧有病者数は4000万人を超えるとされている。また,高血圧有病者数は年齢とともに増加することも知られており,最近の報告では60歳以上では約40%以上が高血圧に罹患していることが示されている1)。わが国の約8万人の健診データによる検討では,腎硬化症の頻度は40歳代では約1~2%と推測されるが,年齢とともに増加し70~74歳の群では15%を超えると推測されている2)。このように,腎硬化症は高血圧を有する高齢者には高頻度にみられる疾患と推測されている。
ただ,その診断は必ずしも容易ではない。一般臨床においては,長期の高血圧歴を有し,眼底所見にて高血圧性変化を認める症例に軽度の蛋白尿や血尿と腎機能低下を認めた際には,腎硬化症と診断することが多い。しかし,粥状動脈硬化などに伴う腎動脈狭窄による虚血性腎症や尿細管間質性腎炎なども同様の臨床症状を呈することが多く,そのような症例が腎硬化症と診断される場合があり,注意を要する。
多くの高血圧性腎硬化症症例と超高齢社会を背景に,腎硬化症を原疾患とする末期腎不全症例数も増加傾向が続いている。日本透析医学会から報告されている2015年末における透析症例の原疾患のうち,腎硬化症が占める割合は9.5%(約3万例)であり,糖尿病性腎症,慢性糸球体腎炎についで3番目の原疾患となっている3)。
この増加傾向は年間の新規透析導入患者数の推移を見るとより顕著である。慢性糸球体腎炎による透析導入の症例数は減少傾向が続き,糖尿病性腎症による新規導入の症例数も横ばい傾向なのに比べて,腎硬化症の割合は,増加の一途をたどっている。腎硬化症を背景とする新規透析導入患者数の割合は14.2%である。また注目すべきは,透析導入患者における原疾患別の平均年齢である。腎硬化症を原疾患とした,新規透析導入患者の平均年齢は75.3歳であり,糖尿病性腎症の67.3歳や慢性糸球体腎炎の68.8歳に比べて明らかに高齢である(図1)。このように高血圧性腎硬化症は,特に高齢者の透析導入原因として,重要な疾患である。
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