(岐阜県 K)
後天性特発性AAは,汎血球減少と骨髄の低形成を特徴とする骨髄不全症(bone marrow failure:BMF)の1つです。後天性特発性AAはシクロスポリン(cyclosporin A:CsA)やantithymocyte globulins(ATG)などのT細胞を選択的に障害する薬剤によって改善することから,T細胞を介した免疫学的機序が強く関与していると考えられています。
一方, MDSは,後天性に遺伝子異常や染色体異常が造血幹細胞に生じ,造血不全とクローナルな骨髄性造血器腫瘍を発症するBMFの1つです。これまで後天性特発性AAとMDSの鑑別は,臨床的には芽球の出現,血球の異形性や染色体異常があればMDSと診断し,これらの所見がなければ後天性特発性AAと臨床診断してきました。しかし,造血器腫瘍と異なり,BMFは汎血球減少症や骨髄の造血不全のため解析対象となる血球数が少なく,両者を鑑別するのに十分な検査が行えない場合もあります。
また,遺伝子検査の進歩によって染色体異常や遺伝子異常が検出される後天性特発性AAや,免疫抑制療法(immunosuppressive treatment:IST)に治療反応性を示すMDS,さらにAAがMDSに移行する症例もあり,このことが両者の鑑別をより難しくしています。そこで,実臨床においては以下のような検討を行い,後天性特発性AAとMDSを鑑別しています。
好中球アルカリホスファターゼ(neutrophil alkalinephosphatase:NAP)スコアは好中球機能を示す臨床検査です。後天性特発性AAは,汎血球減少症に伴い内因性のgranulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)の刺激を受け,NAPスコアが上昇することがあります。一方,MDSは好中球への分化異常のため,NAPスコアが低値となる症例が時折認められます1)。
血球の形態異常はMDSの特徴的な検査所見と考えられていますが,末梢血の赤血球大小不同や骨髄の巨赤芽球性変化などの赤血球系の異形成は後天性特発性AAにも認められることがあります。WHOの診断基準としては各系統の細胞の10%以上に異形が認められればMDSの有力な所見として考えることができるとされていますが,このことは10%前後の細胞の異形成では後天性特発性AAとMDSは鑑別できないことを示します2)。
骨髄塗抹標本の鉄染色における環状鉄芽球はMDSの鉄芽球性貧血の診断に有用ですが,これも15%以上の環状鉄芽球の検出が必要です3)。このように血球の形態異常は数的基準をクリアせねばなりません。また,わが国よりMDSの診断に意義が高い特異的な異形成に関して質的意義と量的意義が提唱され,カテゴリーAの異形成に関してはMDSの特異性が高いと考えられています4)。
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