近年,世界的にヒトパピローマウイルス(HPV)感染によるHPV陽性中咽頭癌の罹患数が急増し,わが国においてもその頻度は増加している。筆者らの最近の施設における解析では,63症例中35症例(55%)が悪性型HPV陽性であった。HPV陽性中咽頭癌は,化学放射線治療が奏効し,喫煙や飲酒が原因と考えられる従来型のHPV陰性中咽頭癌と比較して予後良好とされている。このようなことから,UICCのTNM病期分類の第8版改訂では,2017年1月から頭頸部癌に新たなパラダイムとして,HPV陽性中咽頭癌が追加された。今後,子宮頸癌に保険適用項目になっているHPVジェノタイプ判定検査が,中咽頭癌にも適用になることが期待される。
この10年余り,欧米日本を中心に中咽頭癌の遺伝子解析は活発に行われ,数多く報告されている。筆者らは,中咽頭癌をはじめ頭頸部癌の遺伝子解析研究により,エピジェネティックな変化の重要性を見出している。GAL,GALR1,GALR2遺伝子のエピジェネティックな遺伝子抑制をHPV陽性中咽頭癌で多く認め,HPV感染の有無と併せ再発リスクの予測因子になることを報告した1)。
最後に,わが国のHPVワクチン接種の現況は,世界的な接種状況と比べると特異な状態であると考えられる。子宮頸癌の増加とともに中咽頭癌の特異的な増加も予想され,社会的背景が異なるわが国における中咽頭癌に,今後も注目していく必要がある。
【文献】
1) Misawa K, et al:Mol Carcinog. 2017;56(3): 1107-16.
【解説】
三澤 清*1,細川誠二*2 *1浜松医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科病院准教授 *2同准教授