福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は,神経細胞移動障害による脳奇形を特徴とする重度の筋ジストロフィーであり,日本人に特異的に多い。患者の多くは生涯歩行不能であり,呼吸不全,心筋症により20歳以前に死亡する難病であるが,治療法はまだない。
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)に対しては,欧米を中心に多数の治療候補薬剤の治験が行われ,近年,ようやく1つが欧州で条件付き承認,1つが米国FDAの承認を得た。DMD治験において承認が得られにくいのは,小児患者においては理解や集中力の点から運動機能評価が困難であり,主要評価項目の統計学的有意差に結びつかないことが一因である。このため,現在DMDのヒストリカルコントロールの利用や,適切な評価項目の再検討が行われている。
FCMDにおいては,DMDの治験と比較し圧倒的に治療選択肢が少ない。その理由として,FCMD患者および研究が日本に限局していることが挙げられるが,逆に言えば,FCMDの治療開発は日本の研究者,臨床家にとって責務とも言える。近年,Taniguchi-Ikedaらが,FCMDのモデル動物を用いてアンチセンス核酸を用いた治療の有効性を報告し,前臨床試験段階まで進んだ。
当科には多数のFCMD患者が通院しており,DMD治験を通して得た経験を生かし,FCMDのヒストリカルコントロールのデータ収集,および適切な運動機能評価尺度の開発を行い,早期承認を目標に戦略を練っている。
【解説】
石垣景子 東京女子医科大学小児科講師