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心肺蘇生法の未来予想【さらなる市民の協力,心肺蘇生法の「質」向上,最適なプロトコールの確立が必要】

No.4859 (2017年06月10日発行) P.55

中森 靖 (関西医科大学総合医療センター救急医学科教授)

石見 拓 (京都大学環境安全保健機構健康科学センター 教授)

登録日: 2017-06-08

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  • 来院時心肺停止症例の救命率や脳蘇生率は,大きく向上したように感じます。私が救急医として歩み出した20年前には,心肺停止で搬送された患者がのちに歩いて退院するなど想像もできませんでした。心肺蘇生法の標準化,市民に対する一次救命処置(basic life support:BLS)講習,医療従事者に対する二次救命処置(advanced cardiac life support:ALS)講習,自動体外式除細動器(automated external defibrillator:AED)の普及,救急救命士による特定行為の実施など,教育や制度的な取り組みの積み重ねが,救命率や脳蘇生率向上の主な要因であると思われます。市民や救急救命士の頑張りで,病院到着時に救命・脳蘇生の可能性が残された症例がますます増加する中,蘇生のプロフェッショナルであるべき救急医に求められること,さらには今後導入される可能性がある治療法などがありましたら,京都大学環境安全保健機構・石見 拓先生にご教示頂ければと思います。

    【質問者】

    中森 靖 関西医科大学総合医療センター救急医学科教授


    【回答】

    わが国では,消防機関によって「ウツタイン様式」と呼ばれる国際基準に則った院外心停止の全例登録が継続的に実施されており,院外心停止例に対する救命処置の時間経過,社会復帰率などの実態を把握することができます。この統計によると,内因性で倒れるところを市民に目撃された院外心停止からの社会復帰率は2005~14年の間に2.4%から5.1%へ,心室細動症例に限ると10.1%から24.9%へ劇的に改善しています1)。この間の社会復帰率向上は,救急救命士制度の充実,市民による心肺蘇生の実施率上昇など病院到着前の救急医療体制の改善が主な要因です。しかし,この社会復帰率の向上は,2009年前後を境に頭打ちの傾向にあり,さらなる改善が求められます。

    次なるブレイクスルーは,大きく以下の3つのパートにわかれていると考えています。

    (1)さらなる市民の協力

    市民による心肺蘇生の実施や,AEDを用いた電気ショックで約2倍社会復帰率が向上することが実証されており,市民の協力が社会復帰率向上のカギを握っていることは間違いありません。市民による心肺蘇生の実施率は,多くの地域で50%前後まで増加しています。また,2005~13年に発生した市民に目撃された心原性心室細動患者のうち,AEDを用いて市民による電気ショックを受けた人の割合は,1.1から16.5%に増加しており,駅やスポーツ施設などでは60%を超えるケースでAEDを用いた電気ショックが行われています2)。しかし,市民に目撃された心原性心停止全体の中で,AEDを用いた電気ショックに至っているケースは5%程度であり,まだまだ不十分です。

    今後は,シンプルで教育も現場での実践も容易な,胸骨圧迫のみの心肺蘇生法を活用したり,急速に発達するソーシャルメディアテクノロジー(スマートフォン)を活用して,心停止の現場からあらかじめ登録された救助者に心停止の場所と最寄りのAEDの情報を伝え,応援に駆けつけてもらう仕組みの構築など,市民による救助をさらに促していくことが不可欠です。

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