学校給食と食育,減塩できる社会環境づくり,食塩摂取量の可視化が重要であるb高血圧患者も一般健常者も子どもも,食塩1日摂取量6g未満をめざす
日本の食はうま味を上手に使い,栄養のバランスが良く,世界でも高い評価を得ているが,唯一の弱点は高食塩食であることだ。この高食塩食が日本人に一番多い疾患である高血圧の主な原因となっている。そして,高血圧が動脈硬化を引き起こし,脳卒中やそれに続く寝たきり,認知症,心筋梗塞や腎臓病の原因となる。最近の知見によると,高血圧にならなくても食塩が直接血管を傷害して脳卒中や心筋梗塞などの心血管病を引き起こすことも判明した。そればかりか,高食塩食が胃癌や骨粗鬆症の発症に関係することもわかってきた。食塩の過剰摂取は,高血圧だけでなく日本人の多くの疾患に深く関わっていると言える。
高血圧をはじめ多くの生活習慣病は,大人になってから発症することが圧倒的に多い。しかし,人は大人になって急に食塩を過剰摂取しはじめるわけではない。子どもの頃からの習慣で高食塩食を摂取し続け,無意識のうちにせっせと高血圧などの疾患になる準備をしているようなものである。医師がいくら診察室で高血圧患者に減塩指導をしても,その数は減少することはない。日本人の高食塩食の習慣がこのまま続く限り,子どもたちはその予備軍であり,将来必ず次々に高血圧になっていく。果ては脳卒中から寝たきり,認知症,そして心臓病,腎臓病,胃癌,骨粗鬆症となるのは火を見るより明らかである。
少子高齢化で支えきれなくなる莫大な医療費や介護費を削減するためにも,時は既に,発病してからの治療ではなく,予防に重きを置くステージに移った。日本人の食の減塩化は,社会が動けば,比較的簡単に達成できる問題だと思われる。子どもの将来を考えるのは大人の責任であり,子どもの頃からの減塩の教育(食育)こそが大切なのである。
美味しいと感じる味の感覚は慣れである。「三つ子の魂百まで」と言うように,子どもの頃から慣れた味を大人になって変えるのは難しい。現代の子どもは加工食品やファストフード,市販の惣菜,スナック菓子など,食塩の多い食事を摂取する傾向が強く,濃い味しか美味しいと思えない「味音痴」になっている場合も多い。子どもの頃から減塩の味(適塩)を覚えると,それが生涯その人にとっては普通の味となり,大人になってあるいは疾患を発症してから減塩をする必要がなく,多くの生活習慣病を予防できる。味覚が敏感になり,食材の味がわかるようにもなる。日本高血圧学会減塩委員会では,高血圧患者のみならず日本人なら誰でも食塩1日摂取量を6g未満とすることを推奨している1)。
また,子どもへの減塩教育は,効率よく大人世代への減塩実現へとつながる。たとえば,高血圧患者にはお祖父さん,お祖母さん世代が多い。診察室でお祖母さん世代に減塩を勧めると「私はしたいけれど,嫁や孫が濃い味を好むので私1人のために迷惑がかかる」とエクスキューズし,嫁世代の人に勧めると,「私はしたいけれど,姑が濃い味を好むのでできません」と言い訳をし,家庭内でお互いに牽制あるいは遠慮してうまく減塩行動へ結びつかない。良いとわかっていても家庭内でさえなかなか進まないのが社会の現実だ。
ところが,子どもが学校で減塩教育を受け,それが家庭で話題になると,母親もお祖母さんも一緒に減塩料理を頑張って手がけるようになり,父親もお祖父さんもその健康料理の恩恵にあずかり,一家で減塩できる。一石二鳥以上である。実際に,筆者が学校医を担当している呉市立昭和東小学校で実験的に減塩の授業を試みたところ(図1),それから学校側が自主的に減塩教育に取り組み,子どもも「減塩レシピ」や「減塩調べ研究」に取り組んで,それを「ほけんだより」で家庭に持ち帰り家庭料理の減塩化が進んだ経験がある。
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