株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

(2)減塩は子どもから ─広島県呉市における食育の試み [特集:減塩から始める予防医療]

No.4755 (2015年06月13日発行) P.25

日下美穂 (日下医院院長/「こだわりのヘルシーグルメDietレストランin呉」プロジェクト代表)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-17

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • 学校給食と食育,減塩できる社会環境づくり,食塩摂取量の可視化が重要であるb高血圧患者も一般健常者も子どもも,食塩1日摂取量6g未満をめざす

    1. 日本人は子どもの頃から高食塩食を食べ続けている

    日本の食はうま味を上手に使い,栄養のバランスが良く,世界でも高い評価を得ているが,唯一の弱点は高食塩食であることだ。この高食塩食が日本人に一番多い疾患である高血圧の主な原因となっている。そして,高血圧が動脈硬化を引き起こし,脳卒中やそれに続く寝たきり,認知症,心筋梗塞や腎臓病の原因となる。最近の知見によると,高血圧にならなくても食塩が直接血管を傷害して脳卒中や心筋梗塞などの心血管病を引き起こすことも判明した。そればかりか,高食塩食が胃癌や骨粗鬆症の発症に関係することもわかってきた。食塩の過剰摂取は,高血圧だけでなく日本人の多くの疾患に深く関わっていると言える。
    高血圧をはじめ多くの生活習慣病は,大人になってから発症することが圧倒的に多い。しかし,人は大人になって急に食塩を過剰摂取しはじめるわけではない。子どもの頃からの習慣で高食塩食を摂取し続け,無意識のうちにせっせと高血圧などの疾患になる準備をしているようなものである。医師がいくら診察室で高血圧患者に減塩指導をしても,その数は減少することはない。日本人の高食塩食の習慣がこのまま続く限り,子どもたちはその予備軍であり,将来必ず次々に高血圧になっていく。果ては脳卒中から寝たきり,認知症,そして心臓病,腎臓病,胃癌,骨粗鬆症となるのは火を見るより明らかである。
    少子高齢化で支えきれなくなる莫大な医療費や介護費を削減するためにも,時は既に,発病してからの治療ではなく,予防に重きを置くステージに移った。日本人の食の減塩化は,社会が動けば,比較的簡単に達成できる問題だと思われる。子どもの将来を考えるのは大人の責任であり,子どもの頃からの減塩の教育(食育)こそが大切なのである。

    2. 子どもの減塩は大人世代の減塩行動にもつながる

    美味しいと感じる味の感覚は慣れである。「三つ子の魂百まで」と言うように,子どもの頃から慣れた味を大人になって変えるのは難しい。現代の子どもは加工食品やファストフード,市販の惣菜,スナック菓子など,食塩の多い食事を摂取する傾向が強く,濃い味しか美味しいと思えない「味音痴」になっている場合も多い。子どもの頃から減塩の味(適塩)を覚えると,それが生涯その人にとっては普通の味となり,大人になってあるいは疾患を発症してから減塩をする必要がなく,多くの生活習慣病を予防できる。味覚が敏感になり,食材の味がわかるようにもなる。日本高血圧学会減塩委員会では,高血圧患者のみならず日本人なら誰でも食塩1日摂取量を6g未満とすることを推奨している1)
    また,子どもへの減塩教育は,効率よく大人世代への減塩実現へとつながる。たとえば,高血圧患者にはお祖父さん,お祖母さん世代が多い。診察室でお祖母さん世代に減塩を勧めると「私はしたいけれど,嫁や孫が濃い味を好むので私1人のために迷惑がかかる」とエクスキューズし,嫁世代の人に勧めると,「私はしたいけれど,姑が濃い味を好むのでできません」と言い訳をし,家庭内でお互いに牽制あるいは遠慮してうまく減塩行動へ結びつかない。良いとわかっていても家庭内でさえなかなか進まないのが社会の現実だ。
    ところが,子どもが学校で減塩教育を受け,それが家庭で話題になると,母親もお祖母さんも一緒に減塩料理を頑張って手がけるようになり,父親もお祖父さんもその健康料理の恩恵にあずかり,一家で減塩できる。一石二鳥以上である。実際に,筆者が学校医を担当している呉市立昭和東小学校で実験的に減塩の授業を試みたところ(図1),それから学校側が自主的に減塩教育に取り組み,子どもも「減塩レシピ」や「減塩調べ研究」に取り組んで,それを「ほけんだより」で家庭に持ち帰り家庭料理の減塩化が進んだ経験がある。

    残り3,543文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    公立小浜温泉病院

    勤務形態: 常勤
    募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
    勤務地: 長崎県雲仙市

    公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
    現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
    2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
    6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

    当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
    2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
    又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

    ●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
    今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top