高齢化社会に伴い,慢性硬膜下血腫の発生頻度も著しく増加している
高齢者は,加齢に伴う身体能力の低下により転倒などの軽微な外傷を起こしやすく,脳萎縮に伴う硬膜下腔拡大という解剖学的特徴と相まって慢性硬膜下血腫が発生しやすい
心房細動や虚血性心疾患,虚血性脳血管障害などに対して,血栓塞栓予防を目的に広く普及した抗凝固療法や抗血小板療法が,高齢者における慢性硬膜下血腫のリスク増加に拍車をかけている
高齢者慢性硬膜下血腫では,頭蓋内圧亢進症状や巣症状などの中枢神経症状が目立たず,認知障害や尿失禁などの症状が前景に出る場合があることに留意する
慢性硬膜下血腫は,脳神経外科の日常診療において遭遇する頻度の最も高い疾患の1つである。発生頻度は,1975年のHelsinki研究で1.7人/10万人/年とされ1),これまで長らく引用されてきたが,診断機器が発達し医療・社会・生活環境が著しく変化した今日においては,大きく様相が異なっている。わが国の成人における慢性硬膜下血腫の発生頻度は,1992年の淡路島研究において13.1人/10万人/年と報告され2) ,筆者ら3) が2011年に報告した宮城頭部外傷研究会多施設共同登録調査では20.6人/10万人/年であり,近年増加していることが示唆される(図1)1)3)。
この宮城頭部外傷研究会多施設共同登録調査における年齢別発生頻度(/10万人/年)を見ると,20歳代で1.9人,30歳代で1.6人,40歳代で5.2人,50歳代で12.6人であるのに対し,60歳以上では急激に発生頻度が増加し,60歳代で39.2人,70歳代で76.5人,80歳以上では127.1人であり,本症が高齢者に好発することは明白である。内閣府「平成24年版高齢社会白書」によれば,高齢者人口は2040年頃にピークを迎えるまで増加し続けるとされ,慢性硬膜下血腫の発生頻度が今後もさらに増加することは想像に難くない。
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